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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top産褥>産褥精神障害

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 5.産褥のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 産褥期の精神障害はマタニティ・ブルーズ、産褥期うつ病、産褥精神病に大別される。
    2. マタニティ・ブルーズは分娩後3〜10日頃に発症し、一過性で短期間に改善する軽度のうつ状態をという。薬物治療は行なわない。
    3. 産褥期うつ病は一般のうつ病より長期化しやすく、育児の障害が問題になる。重症では自殺念慮、殺児念慮があり、入院管理が必要になる。
    4. 産褥精神病は新生児に対する妄想や不安を訴え、幻聴、幻覚、幻視、興奮、錯乱などをきたす。自殺は少ないが、殺児念慮を持つことがある。

noteリスクサイン

リスク1:気分の低下.涙もろさ.不眠.
リスク2:妄想.幻聴.幻覚.幻視.興奮.錯乱.
リスク3:自殺念慮.殺児念慮.

note産褥看護ポイント

  1. マタニティ・ブルーズ
    1. 最も多く遭遇する疾患はマタニティ・ブルーズである。
    2. 一過性の疾患で必ず改善することを説明する。この説明は褥婦のみならずその家族にも行なう。中には偏見をもち、後の育児や家庭生活に影響を及ぼすこともある。
    3. 無理に褥婦の気分を高める必要はなく、話をよく聞き、指導(授乳、沐浴など)も褥婦のペースにまかせる。達成できないものについては、後日あらためて指導するか、家族にアドバイスしても良い。

  2. 産褥期うつ病、産褥精神病
    1. 精神疾患をもつ褥婦と接する場合、特別な意識を持つ必要はない。よく話を聞いて、誠実に対応するという点では、他の疾病を持つ褥婦と同じである。
    2. のんき、根気、元気を指導指針に掲げ対応する専門施設もあり、その対応には忍耐がいる。
    3. 対応のポイントは、対話の進行を焦らず、まず待つこと、次に、もうひとつ待つこと、そして、肯定的に話し、些細なこともほめる。
    4. 患者は集中力が落ちており、話は友人同士で使うような単純、明快な言葉で、抽象表現や前置きはおかないようにする。

  3. 家族へのサポート
    1. 精神疾患をもつ褥婦では、家族へのアドバイスが重要になる。
    2. 家族は患者を抱えることで大変な思いをしている一方、褥婦にとっても家族が負担になることがあり、双方に悪循環になっていることがある。
    3. こうした場合、家族の対応技術を高める必要がある。
    4. 回復には時間がかかること、悪いところばかりを見ず、良いことをほめること、子ども扱いせず、無理のない約束をつくることなどをアドバイスし、家族自身も自分の時間を大切にするよう説明する。

note病態生理

 産褥期は精神的に不安定になる。この時期の精神障害はマタニティ・ブルーズ、産褥期うつ病、産褥精神病に大別される。

noteマタニティ・ブルーズ

    1. 概念
      分娩後3〜10日頃に発症し、一過性で短期間に改善する軽度のうつ状態をマタニティ・ブルーズという。

    2. 頻度
      褥婦の10〜50%に発症するが、欧米にくらべ本邦は低率である。

    3. 症状、診断
      気分の低下、不安、涙もろさ、不眠など情緒および認知の障害を主体とする。産褥期精神病と異なり、興奮は認めない。

    4. 治療
      通常、薬物は用いない。一過性の症状であることを説明し、褥婦の育児への不安を取り除く。

note産褥期うつ病

  1. 概念
    分娩後1〜2ヶ月以内に発症する。一般のうつ病より長期化しやすく、育児の障害が問題になる。母子の相互関係が損なわれると、児の発育も障害される。産後1ヶ月で産婦人科への通院が終わるため、その後の発症が見過ごされ、発見が遅れることが多い。

  2. 頻度
    入院を要する重症例は、褥婦の0.1〜0.3%程度であるが、軽症を含めた場合10〜15%とマタニティ・ブルーズ同様高率になる。

  3. 症状
    1) 軽症:気分の低下、涙もろさ、不眠、食欲低下。
    2) 重症:自殺念慮、殺児念慮。

  4. 治療
    三環系抗うつ薬、抗不安薬を用いる。重症例は入院管理する。

note産褥精神病

    1. 概念
      ほとんどが産後1週間頃発症する。妊娠前から診断、治療されている場合は、産褥期に悪化することが多い。

    2. 頻度
      褥婦の0.1〜0.7%。

    3. 症状
      新生児に対する妄想や不安を訴え、幻聴、幻覚、幻視、興奮、錯乱などをきたす。自殺は少ないが、殺児念慮を持つことがある。

    4. 治療
      専門医による抗精神薬治療が必要で、薬剤の種類や量によっては授乳を禁じる。産褥期に初発の場合は、他の時期に発症したものに比較し、速やかに症状の改善がみられる。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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