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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top産褥>乳腺異常

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 5.産褥のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

乳腺炎

  1. 授乳期にみられる乳腺炎にはうっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎がある。
  2. うっ滞性乳腺炎は、産褥1週間以内に多く、乳房全体が腫脹し発熱はない。マッサージにより乳汁が排出されれば改善する。
  3. 化膿性乳腺炎は産褥2週間以降に多く、乳房の一部が発赤、腫脹し熱発する。授乳を中止し、抗生物質、消炎鎮痛剤を投与し、場合によっては切開排膿しなければならない。

乳汁分泌不全

  1. 初産婦や高齢産婦に多くみられる。
  2. 予防には妊娠中に乳房チェックを行ない、扁平乳頭、陥没乳頭などの矯正を行なう。
  3. 早期の授乳開始、授乳後の乳腺腔の空虚化、マッサージを励行しする。
  4. 乳汁分泌促進にはスルピリド(ドグマチールmed)を投与する。

noteリスクサイン

乳腺炎
リスク1:乳房全体の腫脹.
リスク2:乳房の部分的硬結、発赤、疼痛.発熱.
リスク3:なし.

乳汁分泌不全
リスク1:扁平乳頭.陥没乳頭.衰弱.分娩時の大出血.
リスク2:児体重の増加不良.
リスク3:なし.

note産褥看護ポイント

  1. 乳腺炎
    1. うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎を鑑別することが大切である。
    2. うっ滞性乳腺炎の場合、乳管の開通を促すようマッサージするが、腫脹、疼痛が強い時は、根気よく少しずつでも乳汁を排出させる。
    3. うっ滞性乳腺炎であっても経過によっては細菌感染が続発することがあり、腫脹、疼痛が限局する傾向があれば、早期に専門医を受診する。

  2. 乳汁分泌不全
    1. 扁平乳頭、陥没乳頭などは妊娠中期(妊娠5ヶ月)以降にホフマン法などにより乳頭を矯正したり、ブレスシールドを着用させる。
    2. 母児の接触による精神的な母子関係は生後12時間以内に確立すると考えられ、分娩後可能な限り早期(1時間以内に分娩台などで)に授乳を開始する。
    3. 3時間毎に1回20〜30分程度、1日6〜7回が授乳の目安になるが、時間に限らず児の要求に応じ、また、授乳の時間も20分などにこだわらず、ゆったりした気分で哺乳できるよう配慮することも母乳栄養確立には有効である。
    4. 産褥初期に乳汁の分泌が不十分でも、安易に人工乳を用いず、乳頭を根気よく吸ってもらうことで乳汁分泌を促したい。
    5. 授乳後の搾乳も分泌促進には効果的である。乳腺腔に乳汁が残留すると乳腺腔の内圧が高くなり、次の新しい乳汁産生を抑制する。この際、乳管の開通が不十分であればマッサージを併用するとよい。

note乳腺炎

 授乳期にみられる乳腺炎は、乳汁排泄障害により発症するうっ滞性乳腺炎と乳頭から細菌が感染する化膿性乳腺炎がある。

  1. うっ滞性乳腺炎
    1. 発症時期
      乳汁分泌が盛んになる産褥3〜5日頃に好発する。
    2. 症状
      乳汁がうっ滞し、乳房全体の腫脹、硬結、発赤、疼痛が出現する。腋窩リンパ節が腫大することがある。腋下体温のみ高値で、口腔内温は正常である。
    3. 治療
      乳房マッサージにより乳管の開通をはかり、哺乳と搾乳により十分乳汁を排出させる。消炎鎮痛剤は局所の循環を改善し、乳房の腫脹を軽減させるが、乳汁が改善すれば、予防投与する必要はない。

  2. 化膿性乳腺炎
    1. 発症時期
      産褥1週間以降、2〜6週に多い。
    2. 起炎菌と感染経路
      起炎菌には黄色、白色ブドウ球菌などが多く、手指を通じ、乳頭の亀裂など微細な損傷部分から侵入し化膿性炎症をきたす。
    3. 症状
      乳房の一部に熱感、硬結、発赤、疼痛が出現し、しばしば腋窩リンパ節が腫大する。炎症が進むと悪寒、発熱(39℃以上)をきたし、病巣に膿瘍が形成される。
    4. 治療
      哺乳を中止し、提乳帯を施し乳房上に冷湿布をする。乳房マッサージは避け、乳頭を軽く圧して膿を排出する。抗生物質、消炎鎮痛剤はできるだけ早期から投与し、炎症の拡大を防ぐ。改善しない場合は、膿瘍を切開排膿する。ブロモクリプチン(パーロデルmed)を1〜2錠使用し、一時的に乳汁分泌を抑制する方法も効果的とされる。

note乳汁分泌不全

  1. 原因
    衰弱、飢餓、分娩時の大出血(虚血による下垂体機能低下)などが原因となり、初産婦や高齢産婦に多くみられる。

  2. 症状、診断
    乳汁の分泌量は出産後日毎に増加し、産褥1週間で400 ml/日程度になり、その後徐々に増加し、産褥1ヶ月には700〜800 ml/日になる。
    乳汁分泌量を直接測定することは困難で、目安としては1回の授乳時間が20分以上になっても児に満腹感がなく、哺乳後も2〜3時間で泣くような場合である。また、母乳のみで栄養し、児体重の増加が1日30 gより大幅に少ない場合も本症を疑う。

  3. 予防と治療
    1. 妊娠中の管理
      妊娠初期に乳房チェックを行ない、妊娠中にホフマン法などを用い扁平乳頭、陥没乳頭などの矯正を行なう。
    2. 産褥初期の管理
      授乳の早期開始、乳腺腔の空虚化、マッサージを励行し、十分な栄養摂取、精神的安定を保つ。
      プロラクチン分泌抑制因子のドパミン受容体阻害剤のスルピリド(ドグマチールmed)100 mg/日を5日間投与する。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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