リスクサイン
リスク1:予定帝王切開.妊娠中の長期臥床.肥満.
リスク2:下肢放散痛.性器出血.うっ血性浮腫。炎症性腫脹.
リスク3:呼吸困難.胸痛.ショック.
産褥看護ポイント
産褥期血栓塞栓症ほど予防が重要な疾患はない。わずかな注意で、深刻な状態を未然に防ぐことができる。
- 妊娠中の長期臥床(疾患は問わず)、予定帝王切開、肥満などのリスクをもつ妊婦をあらかじめ確認しておく。
- リスク妊婦には妊娠、分娩中から弾性ストッキングの装着や下肢の運動をアドバイスする。
- 帝王切開後はできるだけ早期離床を支援する。
- リスク妊婦が正常分娩した場合、通常では帝王切開後のような医療介入(弾性ストッキングやへパリン投与など)は受けない。しかし、このような妊婦にこそ予防看護が重要になる。下肢の運動(後述)、マッサージなどを積極的に行なうようアドバイスする。
概念
産褥期血栓塞栓症は産褥期に発生する静脈血栓の塞栓をさし、発生部位により表在性静脈血栓と深在性静脈血栓に分類される。
血栓の発生には血液性状の変化(妊娠中は凝固能が亢進する)、血流の停滞(産褥子宮は下大静脈を圧迫し、下肢の血流速度が減少する)、血管内皮の変化(分娩によるわずかな損傷から感染性に内皮が損傷され、血小板が付着し血栓を形成する)が関与する。したがって、産褥期はとくに血栓症が起きやすい。
血栓性静脈炎
血栓が下肢の表在性静脈にあり、同部に静脈炎を併発したものを血栓性静脈炎という。子宮内膜炎など感染症に続発する。病変が外腸骨静脈から股静脈にかけ発生し、静脈炎を併発したものは有痛性白股症とよぶ。
- 症状
産褥7日目頃、下肢の強い放散痛、うっ血性浮腫、炎症性腫脹により発症する。
- 診断
臨床症状から比較的容易に診断されるが、静脈造影や超音波により血栓の存在と広がりを評価する。
- 治療
- 血栓溶解治療:ウロキナーゼ、へパリン、ワルファリンなどを用いる。
- 感染治療:消炎鎮痛剤、抗生物質。
肺塞栓症
深在性静脈血栓より凝血塊が心臓(下大静脈?右心房?右心室)を経て肺動脈に達し塞栓をおこす。帝王切開、肥満、妊娠中の長期臥床などが原因となる産褥期に発症する最も重篤な合併症である。
- 症状
突発する胸部痛と呼吸困難で発症する。重症例では急速にショックとなり死亡する。
- 診断
臨床症状および心電図(右心負荷)、胸部X線、肺シンチから診断される。
- 治療
- ショック治療
- 酸素投与・心肺蘇生
- 血栓溶解治療:ウロキナーゼ、へパリン、ワルファリンなどを用いる。
- 予防
帝王切開はとくに肺塞栓症のリスクとなり、現在多くの施設で術中、術後に下肢間欠圧迫装置(IPC)、あるいは弾性ストッキングの装着を行ない、術後にへパリン投与を行なっている。