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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠後期>子宮破裂

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 3.妊娠後期(29週から42週まで)のリスクサインと対応
   (一覧はこちら

note概要

    1. 子宮破裂は、分娩時、まれに妊娠末期に起こる子宮の裂傷で、胎児死亡のみならず母体死亡にもいたる重篤な疾患である。
    2. 子宮破裂の発生頻度は、0.02〜0.1%で、若干増加傾向にある。
    3. 子宮手術や帝王切開瘢痕などが誘因となるものと、分娩中、何らかの原因により胎児の進行が停止し収縮輪が上昇することで破裂にいたるものがある。
    4. 激痛で発症し、続いて出血と腹膜刺激症状のため虚脱を起こし、ショック状態に陥る。
    5. 出血性ショックの予防、改善をはかり、開腹手術を行う。
    6. 子宮に帝王切開などの瘢痕やその他の誘因がなく発生した子宮破裂例のほうが、診断がおくれ予後不良とされている。

noteリスクサイン

リスク1:子宮手術の既往.分娩遷延.
リスク2:瘢痕部の圧痛・自発痛.過強・痙攣陣痛.不穏状態.
リスク3:激痛.腹膜刺激症状.ショック状態.

noteリスクサインへの対応

  1. 日常生活サポート
    1. 本症で大切なのは予防である。子宮手術(子宮筋腫核出術)や帝王切開の既往歴や発症リスクのある場合は、とくに妊娠末期から瘢痕部の圧痛・自発痛に注意する。
    2. 明確なエビデンスはないが、前回の分娩が帝王切開であった場合は、1年間程度、間隔をあけ次回の妊娠をする。

  2. 帝王切開後経腟分娩(VBAC)介助ポイント
    1. 子宮破裂は帝王切開後経腟分娩(VBAC)において最も注意すべき合併症である。
    2. 帝王切開後経腟分娩(VBAC)を試みる場合、子宮破裂のリスクを含め十分なインフォームドコンセントを行ない、直ちに帝王切開に切り替えられる体制でのぞむ必要がる。
    3. 分娩中、導尿による血尿(尿潜血強陽性)、陣痛間欠時の瘢痕部痛などが出現すれば、本症の発生を留意しなければならない。

note病態生理

 子宮破裂は、分娩時、まれに妊娠末期に起こる子宮の裂傷と定義され、裂傷の程度によって全子宮破裂、不全子宮破裂の2種類に分類される。全子宮破裂は、子宮壁全層が断裂し子宮腔と腹腔が交通するもので、不全子宮破裂は、裂傷が子宮壁の筋層のみに止まり漿膜におよばないものをさす。迅速な診断と的確な処置が施されなければ、胎児のみならず、母体の生命を脅かす重篤な疾患である。

 子宮破裂の発生頻度は、0.02〜0.1%で、1930年代に1000〜4000分娩に1であった発生頻度は、1970年以降では1000〜2000分娩に1と若干増加傾向にある。また、全子宮破裂と不全子宮破裂の割合は9:1で、経産婦では初産婦に比べ約9倍の発生率とされている。

 自然子宮破裂には2つの発症機転が知られている。通常、正常分娩では、生理的収縮輪は恥骨上縁約6cmの高さに達すると、子宮口は全開大し胎児は前進をはじめ、子宮下部の伸展は止み、収縮輪の上昇は停止する。しかし、母体側あるいは胎児側の異常により、胎児の進行が停止した場合、子宮上部が強力に収縮、肥厚する結果、子宮下部の伸展は進み、胎児はほとんど子宮下部腔内に圧入され、収縮輪も次第に上昇し病的収縮輪となる。さらに、この状態で過強な陣痛が起こると病的収縮輪は臍高をこえ、子宮下部の最も菲薄な部分で破裂が発生し、分娩は停止する(定型的破裂)。もうひとつの発症機転は子宮筋の解剖学的変化による破裂で、帝王切開瘢痕、楔入胎盤等の誘因により発症する。また、これらの状態に加え、打撲や転倒などの外傷や可動により誘発される場合もある。

note発症部位

 子宮における裂傷は子宮体下部および子宮頚管の上部に多く、子宮体部上部の破裂は子宮手術後の瘢痕などの場合に限られる。

note症状

 子宮破裂の臨床症状は破裂の原因、時期、程度、部位、出血量などにより異なり多岐にわたる。

  1. 妊娠中期までの子宮破裂
    子宮外妊娠の破裂に似るが、ショック症状、下腹部痛とも強く、胎児が腹腔内または腟内に娩出されない限り、子宮収縮も持続する。出血は内出血が主であるが、外出血を伴うことも多い。

  2. 分娩時の子宮破裂
    1. 切迫子宮破裂徴候
      進行分娩中、陣痛が強くなり過強陣痛、痙攣陣痛にいたり、妊婦は不安、不穏状態になる。瘢痕がある場合は、さらに瘢痕部の圧痛、自発痛も出現する。
      視診では腹壁臍高、またはそれ以上の部位に横、あるいは斜走するBandlの溝(病的収縮輪の腹壁像)が認められる。児心拍の聴取、モニターは必須となるが、過強陣痛による胎児ジストレス徴候が出現することが多く十分注意をはらう必要がある。
    2. 子宮破裂の症状
      前述の定型的子宮破裂の場合、子宮下部の過度の伸展により前駆症状(切迫子宮破裂徴候)が出現し、引き続き破裂症状にいたる。
      産婦は破裂部に激痛を訴え、時に破裂感を自覚する。これとともに産婦の状態は急激に変化する。一時安楽になり、陣痛も停止する。続いて出血と腹膜刺激症状のため虚脱を起こし、ショック状態に陥る。
      胎動は発症後2-3分間、活発であるが、まもなく児心拍とともに消失する。

note診断

    1. 妊娠中期までの子宮破裂
      前駆症状を欠くことが多いため、妊娠中に急性貧血、ショック症状を認めた場合本症も念頭におかなくてはならない。定型的な破裂症状を示す場合は、前述した本症の誘因や既往歴を参考にすることで、比較的診断は容易である。

    2. 分娩時の子宮破裂
      全子宮破裂の診断は、前述の切迫子宮破裂徴候や子宮破裂の症状に注意すれば、それほど困難ではないが、不全子宮破裂の場合必ずしも容易ではない。

    3. 帝王切開瘢痕部の診断
      試験分娩の頻度が増加しているにもかかわらず、帝王切開の既往を持つ妊婦の分娩の18〜44%は反復帝王切開となり、依然、帝王切開適応の第一位を占めている。その原因として、帝王切開による瘢痕子宮における子宮破裂の発生頻度は0.3〜3.8%と高率で、創部の離開は約4%に観察されることがあげられる。
      妊娠前の子宮卵管造影や骨盤レントゲン撮影では、子宮破裂発症予知を行うことができず、分娩方法を選択できないが、妊娠後期の超音波を用いた瘢痕子宮の評価により、子宮下部の厚みが3.5mm以上であれば、ある程度安全に試験分娩が行えることが報告されている。

note治療

  1. 切迫子宮破裂徴候
    帝王切開による急速遂娩を行なう。鉗子・吸引分娩や圧出術などを施行することは禁忌である。手術までは子宮収縮抑制剤を用いるが、場合によっては鎮静作用の強い塩酸モルヒネ、ペチロルファンなどが必要となる。

  2. 子宮破裂
    1. 全身状態の管理
      本症における母体予後は、発症後の出血への対応の速さに依存する。迅速な血管確保と補液あるいは輸血により、出血性ショックの予防、改善をはかり、開腹手術の準備を進める。破裂後は児の生存は期待できない。
    2. 開腹手術
       手術法には子宮全摘術と破裂部の縫合がある。

note予後

 破裂の程度、出血など諸条件によりその予後は異なるが、母体死亡率は約1〜2%であり、胎児死亡率は80%にのぼる。一般に子宮に帝王切開などの瘢痕やその他の誘因がなく発生した子宮破裂例のほうが、診断がおくれ予後不良とされている。

 

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