リスクサイン
リスク1:子宮手術の既往.分娩遷延.
リスク2:瘢痕部の圧痛・自発痛.過強・痙攣陣痛.不穏状態.
リスク3:激痛.腹膜刺激症状.ショック状態.
病態生理
子宮破裂は、分娩時、まれに妊娠末期に起こる子宮の裂傷と定義され、裂傷の程度によって全子宮破裂、不全子宮破裂の2種類に分類される。全子宮破裂は、子宮壁全層が断裂し子宮腔と腹腔が交通するもので、不全子宮破裂は、裂傷が子宮壁の筋層のみに止まり漿膜におよばないものをさす。迅速な診断と的確な処置が施されなければ、胎児のみならず、母体の生命を脅かす重篤な疾患である。
子宮破裂の発生頻度は、0.02〜0.1%で、1930年代に1000〜4000分娩に1であった発生頻度は、1970年以降では1000〜2000分娩に1と若干増加傾向にある。また、全子宮破裂と不全子宮破裂の割合は9:1で、経産婦では初産婦に比べ約9倍の発生率とされている。
自然子宮破裂には2つの発症機転が知られている。通常、正常分娩では、生理的収縮輪は恥骨上縁約6cmの高さに達すると、子宮口は全開大し胎児は前進をはじめ、子宮下部の伸展は止み、収縮輪の上昇は停止する。しかし、母体側あるいは胎児側の異常により、胎児の進行が停止した場合、子宮上部が強力に収縮、肥厚する結果、子宮下部の伸展は進み、胎児はほとんど子宮下部腔内に圧入され、収縮輪も次第に上昇し病的収縮輪となる。さらに、この状態で過強な陣痛が起こると病的収縮輪は臍高をこえ、子宮下部の最も菲薄な部分で破裂が発生し、分娩は停止する(定型的破裂)。もうひとつの発症機転は子宮筋の解剖学的変化による破裂で、帝王切開瘢痕、楔入胎盤等の誘因により発症する。また、これらの状態に加え、打撲や転倒などの外傷や可動により誘発される場合もある。
発症部位
子宮における裂傷は子宮体下部および子宮頚管の上部に多く、子宮体部上部の破裂は子宮手術後の瘢痕などの場合に限られる。
症状
子宮破裂の臨床症状は破裂の原因、時期、程度、部位、出血量などにより異なり多岐にわたる。
- 妊娠中期までの子宮破裂
子宮外妊娠の破裂に似るが、ショック症状、下腹部痛とも強く、胎児が腹腔内または腟内に娩出されない限り、子宮収縮も持続する。出血は内出血が主であるが、外出血を伴うことも多い。
- 分娩時の子宮破裂
- 切迫子宮破裂徴候
進行分娩中、陣痛が強くなり過強陣痛、痙攣陣痛にいたり、妊婦は不安、不穏状態になる。瘢痕がある場合は、さらに瘢痕部の圧痛、自発痛も出現する。
視診では腹壁臍高、またはそれ以上の部位に横、あるいは斜走するBandlの溝(病的収縮輪の腹壁像)が認められる。児心拍の聴取、モニターは必須となるが、過強陣痛による胎児ジストレス徴候が出現することが多く十分注意をはらう必要がある。
- 子宮破裂の症状
前述の定型的子宮破裂の場合、子宮下部の過度の伸展により前駆症状(切迫子宮破裂徴候)が出現し、引き続き破裂症状にいたる。
産婦は破裂部に激痛を訴え、時に破裂感を自覚する。これとともに産婦の状態は急激に変化する。一時安楽になり、陣痛も停止する。続いて出血と腹膜刺激症状のため虚脱を起こし、ショック状態に陥る。
胎動は発症後2-3分間、活発であるが、まもなく児心拍とともに消失する。
予後
破裂の程度、出血など諸条件によりその予後は異なるが、母体死亡率は約1〜2%であり、胎児死亡率は80%にのぼる。一般に子宮に帝王切開などの瘢痕やその他の誘因がなく発生した子宮破裂例のほうが、診断がおくれ予後不良とされている。