リスクサイン
リスク1:なし.
リスク2:急激な腹痛.腹壁板状硬.少量の性器出血.
リスク3:出血性ショック.子宮内胎児死亡.
病態生理
妊娠後半期に、正常位置に付着している胎盤が、妊娠中または分娩中に胎児の娩出に先立って剥離するものをいう。脱落膜基底部に出血が起こり、血腫を形成する。その血腫が増大し、胎盤剥離が進行すると剥離部に血液が貯留し凝固する(胎盤後血腫)。性器出血(外出血)は初め少量か認めないが、出血が大量になると一部は卵膜外をつたわり赤褐色の外出血として腟に流出する。卵膜に裂孔があれば血性羊水となる。血腫形成により血小板が消費されることに加え、トロンボプラスチン様物質が剥離部に開口している小血管に流入し、母体のDIC(p 参照)発生率が極めて高くなる。
発症リスクに妊娠高血圧症候群があげられるが、近年、妊娠高血圧症候群に関連しない常位胎盤早期剥離が増加している。一方で、絨毛膜羊膜炎(p 参照)など感染症がその誘因となる可能性が示唆されている。炎症により活性化された顆粒球エラスターゼ(p 参照)が脱落膜の接着性低下をもたらし本症が発症するとした説である。
明確な原因は明らかではないが、胎児死亡のみならず、母体死亡を引き起こす、重篤な疾患である。
診断
急激にはじまる腹痛と少量の性器出血はまず本症を疑う。
- 触診
腹壁を触診すると板状に硬く触れ(腹壁板状硬)、子宮は剥離部に一致し著明な圧痛を認める。また、血腫が増大すると子宮底の急激な増大をみる。
- 超音波検査
子宮壁と胎盤の間に胎盤後血腫をエコー・フリー・スペース(液体貯留時確認される無エコー領域のこと)として確認できる。後血腫の凝固がすすむと一部器質化し、胎盤の肥厚像(充実性エコー)として確認される。
- 胎児心拍数図
胎児心拍数基線細変動の消失、さざ波様子宮収縮が特徴。
- 鑑別診断
前置胎盤との鑑別が重要。
禁忌
常位胎盤早期剥離の場合、子宮収縮抑制剤は、出血巣を拡大するおそれがあり禁忌である。
予後
重症例では10%に母体死亡、60〜80%に胎児死亡がおこる重篤な疾患。予後を左右する因子には、発症から治療までの間隔、母体DIC合併の有無、発症週数(児の未熟性)などがあげられる。