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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>胎児奇形

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

note概要

    1. 遺伝的要因と胎内環境的要因により発生する。
    2. 親、祖先の変異遺伝子による遺伝病、授精、卵割期の染色体異常などによる配偶子病、器官形成期の異常による胎芽病、発育過程の異常による胎児病に分類される。
    3. 出生前診断により可能な限り病態を把握し、娩出時期や方法、新生児への対応を検討しておくことが大切。
    4. 妊娠経過に与える影響や児の予後について、可能な限り正確な情報を収集し、起こりうる事態に冷静に対応できるようにする。

noteリスクサイン

リスク1:遺伝的要因を持つ妊婦.
リスク2:羊水過多.胎動の減少.
リスク3:子宮内胎児死亡.胎動の消失.

noteリスクサインへの対応

  1. 日常生活サポート
    1. 大部分の先天異常は予防できない。母体の偶発合併症、あるいは服薬によるものは論理的には予防可能であるが、妊娠前に指導を受ける機会に恵まれることは少ない。
    2. 遺伝子診断を受ける場合は、十分な理解が必要で、リスクがあるからといって安易に検査を行なうべきではない。
    3. 専門医による診断の後は、娩出時期や方法、新生児への対応を検討し、家族や夫と十分に相談しておく必要がある。
    4. 診断後は、母子ともにノーマリゼーション(標準化)に心掛ける。すなわち、特別扱いするべきではない。通常の妊産婦として過不足ない生活をおくることが肝要である。

  2. 精神サポート
    1. 不安は多岐にわたるが、胎児異常がその中心にある。
    2. 不安は無知により増大する。したがって、胎児の病態に対し可能な限り正確な予後や対応について情報収集することが大切である。

note病態生理

 遺伝的要因と胎内環境的要因により発生する。軽度のものを含めると全妊娠の約1%に発生する。異常が起こる時期により遺伝病(親、祖先の変異遺伝子による)、配偶子病(授精、卵割期の染色体異常など)(表1)、胎芽病(器官形成期の異常)、胎児病(発育過程の異常)に分類される。

表1 染色体異常による配偶子病

病名(頻度)

症状、特徴

ダウン症(18トリソミー)
(1000人に1人)

男児に多い
顔貌(扁平な鼻、つり上がった眼裂、小さな耳介)
手掌の猿線、筋緊張の低下、精神薄弱
消化器奇形、白血病を合併することがある

18トリソミー
(5000人に1人)

女児に多い
子宮内胎児発育遅延、後頭部の突出、耳介低位
小顎症、指の屈曲拘縮
約50%は1ヶ月以内に死亡

13トリソミー
(5000人に1人)

女児に多い
子宮内胎児発育遅延、顔面異常(無眼球症、口唇口蓋裂)
全前脳(胞)症、心、泌尿器系の多発奇形を合併する
無呼吸発作、痙攣をおこし予後不良
平均生存期間130日、約50%は1ヶ月以内に死亡

ターナー症候群
(女児2000人に1人)

性染色体のX染色体の完全もしくは部分的欠損(45XO)
短躯、翼状頸、外反肘がみられる
知能は正常、二次性徴がない

クラインフェルター症候群
(男児500人に1人)

2個以上のX染色体と1個以上のY染色体(47XXY)
小睾丸、女性様乳房、男性不妊になる
四肢が長く、精神薄弱も特徴的

注:トリソミーとは、染色体異常のうち2本で1対となるべき相同染色体が1本多いものの総称。

note出生前診断

 超音波検査、X線検査、MRI(核磁気共鳴画像)などによる形態観察で診断する。場合によっては子宮腔内(羊水中)に造影剤を投与する胎表造影や羊水染色体検査、DNA診断など侵襲性のある検査が必要になる。

note胎児頭部・脊椎の奇形

    1. 水頭症
      髄液の交通障害により脳室が拡大する。多くは胎生期の異常でTORCH症候群などが原因となる。脳ヘルニア、髄膜瘤、二分脊椎などを合併することが多い。拡大が進行しなければ早期娩出の必要はない。

    2. 無脳症
      妊娠5週頃に神経管が形成されるが、その閉鎖障害で妊娠6週までに発症する。大脳半球は存在せず、頭蓋骨も欠損し、神経が直接露出する。生後1週間以内に死亡する。超音波検査による早期発見が可能で、羊水中のα-プロテインが高く、尿中E3が低値になる。

    3. 二分脊椎
      脊椎の椎弓欠損を二分脊椎とよぶ。無症状のことが多く、小児の20%近くに認めるとする報告もある。妊娠前4週間より受精後1ヶ月まで葉酸0.4 mgを連日服用することで発生率が50%以上減少する。但し、欧米に比較し本邦での発症頻度は低い。

    4. 髄膜瘤
      頭蓋骨の欠損による正中線上の脳の膨隆。20%に知能低下や神経学的異常をきたす。

    5. 全前脳(胞)症
      妊娠初期に発生する脳半球と側脳室の形成不全。染色体異常(13トリソミ−、18トリソミ−)や顔面奇形を伴うことも多い。男女比は1:2で、大部分が生後6ヶ月以内に死亡する。

    6. 口唇裂、口蓋裂
      一側あるいは両側の上口唇の披裂で、上顎突起と鼻隆起の癒合不全による。環境因子や遺伝子が関与し、多指症を合併したり、13トリソミ−の多発奇形で認められる。単独奇形であれば小児形成外科の手術により治療できる場合が多い。

    7. 頚部リンパ管腫
      頸部の後方に嚢胞状にリンパ液が貯留するもの。ターナー症候群(性染色体異常)や18トリソミ−、21トリソミ−に合併して認められることもある。

    8. その他
      顔面裂、小顎症、巨舌症、少耳症、耳介低位、外耳道閉鎖症、単眼症など。

note胎児胸郭、心臓の奇形

  1. 先天性心疾患
    超音波検査により大部分の心奇形が出生前診断される(表4)。

  2. 心臓腫瘍
    結節性硬化症に合併する横紋筋腫が最も多い。

  3. 無心体
    一卵性双胎の1児で心臓が欠損したもの。正常な児からの血管吻合により胎内では生存できる。

  4. 先天性嚢胞状腺腫様肺奇形
    気管支末端の異常増殖により、片側かつ一つの肺葉に嚢胞を生じる。羊水過多を伴う。

  5. 食道閉鎖
    食道上部が盲端となり、食道下部と気管に瘻孔のあるものが多い。18トリソミ−、21トリソミ−など染色体異常、心奇形に合併することが多い。超音波検査で妊娠中期の羊水過多と胃胞の消失が診断の手がかりとなる。

  6. 先天性横隔膜ヘルニア
    横隔膜の欠損により腸管、肝臓など腹腔内臓器が胸腔内に嵌入した状態。早期に発生したものほど、肺の成熟を妨げ予後が不良である。出生後、人工換気と緊急手術を要し、死亡率は50%に達する。

note胎児腹部の奇形

  1. 臍帯ヘルニア
    腹壁の欠損が臍帯付着部にあり、腸管、肝臓、脾臓などが臍帯起始部に嵌入するもの。13トリソミ−、18トリソミ−など染色体異常や心奇形などとの合併頻度が高い。男女比は3:2で、手術的に整復するが、感染症などにより死亡率は30%にのぼる。

  2. 腹壁破裂
    腹壁全層に欠損があり、腸管が直接羊水中に脱出した状態。

  3. 十二指腸閉鎖
    超音波検査によるダブルバブルサイン(腹部の拡張した二つの嚢胞)が特徴的。食道閉鎖同様、胎児が羊水を嚥下・吸収できず約50%に羊水過多を伴う。

  4. 空腸・回腸閉鎖
    嚥下された羊水が閉塞部までの腸管で吸収、代謝されるため、食道、十二指腸などの上部消化管閉塞に比べ症状が少ない。ときに閉塞部付近の消化管に穿孔をきたし、胎便性腹膜炎を発症し発見されることもある。

  5. 巨大結腸症

  6. 鎖肛

  7. 卵巣嚢腫
    女児の下腹部に円形の嚢腫として確認される。母体のエストロゲンに反応し増大することが多く、2 cm以下のものであれば出生後ほとんど消失する。

note胎児泌尿生殖器の奇形

  1. 尿路閉鎖
    超音波検査で腎盂の拡張(1 cm以上)があれば本症を疑う。羊水過少を伴う場合は肺の低形成を生じる可能性がある。羊水量が正常であれば緊急性は少ない。

  2. 嚢胞性腎奇形
    1. ポッタ− I 型
      常染色体劣性遺伝で致死的。両側性に腫大した腎臓を認め、羊水過少をきたす。
    2. ポッタ−II 型
      片側性のことが多く、大小不同の多数の嚢胞をみとめる。

  3. 腎無形成
    両側性の場合ポッタ−症候群と呼ばれ、羊水過少および子宮内胎児発育遅延を伴い、子宮内胎児死亡あるいは新生児死亡をおこす。

note胎児筋骨格系の奇形

  1. 多指(趾)症
    性差はなく、他の奇形を合併しやすい。生後1年前後で手術を行なう。

  2. 合指(趾)症
    多くは常染色体優性遺伝で、合指症では男女比は2:1だが、合趾症では性差はない。生後1年前後で手術するが、変形の強くなる恐れがあるものは早期に行なう。

  3. 欠指(趾)症

  4. 短肢症
    1. 軟骨無発生症候群
      常染色体劣性遺伝で、躯幹、四肢とも短い。羊水過多を伴うことが多く、致死性である。
    2. 致死性異形成症
      常染色体優性遺伝で、超音波検査で強度の四肢短縮、頭蓋のクローバー様変化、胸郭低形成、大腿骨のテレフォンレシーバー様変化が特徴。

  5. あざらし肢症
     四肢長管骨の先天性欠損、サリドマイドとの因果関係が推察されるが確証はない。

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