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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>子宮内胎児発育不全

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

(5)子宮内胎児発育遅延

note概要

    1. 何らかの原因で子宮内の胎児発育が遅延または停止する状態。
    2. 児の体重や身長が小さいだけでなく、種々の臓器の機能的未熟性も問題となり、正常胎児に比べ、新生児罹患率や死亡率が増加する。
    3. 胎児自身の障害により頭部、躯幹ともに発育遅延がおこる均衡型、胎児への栄養供給障害(胎盤循環不全)により躯幹の発育遅延が中心となる不均衡型とその混合型に分類される。
    4. 母体体重増加が4週間で1kg未満、子宮底長が各週数の平均値−1.5SD以下、または妊娠35週までは妊娠週数−6cm、36週以降は妊娠週数−7 cm以下の場合、胎児発育遅延を疑う。
    5. 超音波検査による胎児推定体重が、出生時体重基準曲線で10パーセントタイル未満(全測定値中の10%未満)の場合、本症と診断する。
    6. ノンストレステスト(NST)、バイオフィジカルプロファイルスコア−(BPS)など胎児機能検査による管理が重要。
    7. 安静、点滴治療に抵抗し児発育が停滞する場合や、胎児機能検査で胎児ジストレスと診断される場合は児の娩出をはかり、胎外治療を行なう。

noteリスクサイン

リスク1:母体体重増加不良(4週間で1kg未満)。
リスク2:子宮底長増加不良。
リスク3:NST、BPSによる胎児異常。胎動の減少。発育停止。

noteリスクサインへの対応

  1. 日常生活サポート
    1. すでにつわりの時期が過ぎている妊娠中期に母体の体重増加不良があれば、本症の発生に注意しなければならない。体重増加が4週間で1kg未満のときは本症を念頭におき生活習慣(喫煙、飲酒、食事内容・摂取量、睡眠、就労など)について確認する。
    2. 胎児自身に問題がある均衡型(type I) では生活習慣が影響することは少ないが、胎児への栄養供給障害(胎盤循環不全)による不均衡型(type II)では喫煙、食事内容・摂取量、就労などが誘因となっている場合もある。
    3. 規則正しい生活習慣と食生活を心がけ、余暇には消費カロリー抑制と胎盤循環血流量増加を目的に側臥位の安静がよい。
    4. 体重増加不良が改善しない場合は専門医を受診する。

  2. 栄養サポート
    1. 母体の体重増加が不良な場合、食生活習慣を確認する。
    2. カロリー不足がなくても、インスタント食品などを多く摂取している場合、栄養バランスが乱れていることがある。
    3. 基本的な栄養指導を行ない、必要に応じカロリー補助剤やビタミン剤(ビタミンC、E)を用いる。ビタミンC、Eは安全性が確立しており、活性酸素を除去する作用から血流障害の改善効果が報告され、今後この領域の治療薬として期待されている。

  3. 看護ポイント
    1. 喫煙、就労状況など生活習慣の改善と原因疾患の除去以外、本症に対するエビデンスに基づく治療は確立していない。残念ながら、食事指導、安静、点滴、酸素投与などに明らかな治療効果はない。このことは入院管理を受ける妊婦を不安にする。
    2. しかし、本症を含めたハイリスク妊婦に対する胎児機能検査は新生児仮死などの罹病率を減少させるというエビデンスがあり、入院管理する真の目的は厳重な胎児監視にある。
    3. 胎児機能検査を反復して行ない、児の健常性を保証することの重要性を説明し、精神的な不安や入院によるストレスを取り除きたい。

note病態生理

 胎児は細胞増殖期、器官形成期などの形態的発育期と各臓器の機能的成熟期を経て、胎外生活に適応する能力を獲得する。子宮内胎児発育遅延はこれらの過程が、何らかの疾患や状態により障害される一種の症候群と位置づけられる。したがって、単に体重や身長が小さいだけでなく、種々の臓器の機能的未熟性も問題となり、正常胎児に比べ、新生児罹患率や死亡率が増加する。

 染色体異常など胎児自身の問題による均衡型(symmetrical type, type I)と胎盤循環障害による不均衡型(asymmetrical type, type II)、およびその混合型に分類される。均衡型は頭部、躯幹ともに発育遅延がみとめられるが、不均衡型では頭部に比べ躯幹の発育が遅延する。これは胎盤からの酸素や栄養供給の低下に対し、胎児がバイタルオルガン(脳、心臓)を保護するために循環状態を調節し(再分配)対応する結果と考えられている。

 具体的には超音波検査による胎児推定体重が、出生時体重基準曲線で10パーセントタイル未満(全測定値中の10%未満)の場合、本症と診断する。

note分類と原因

 発育パターンにより以下のように分類される。

  1. 均衡型(symmetrical type, type I):発育不全型
    胎児自体の障害によるもので、発育遅延児の20〜30%を占める。妊娠初期から中期にかけて発症し(早期発症型)、頭部、躯幹ともに発育遅延が認められる。遺伝子あるいは染色体異常や胎内感染などがその原因としてあげられ(50%が先天異常)、予後は不良である。

  2. 不均衡型(asymmetrical type, type II):栄養失調型
    胎児への栄養供給障害により、体重増加の障害が中心で皮下脂肪が少ない、いわゆる「痩せ」のもので、発育遅延児の70%を占める。妊娠中期以降に発症し(晩期発症型)、躯幹の発育遅延に対し、頭部の発育は保たれる。比較的予後が良い。

  3. 混合型
    均衡型、不均衡型の中間型で発育遅延児の5%を占める。早発型妊娠中毒症、母体の高度栄養失調、薬物、喫煙、アルコールなどが原因となり、発育遅延の程度によりその予後は異なる。

note症状・診断

 発育遅延による自覚症状はない。通常、妊婦健診で子宮底長が各週数の平均値−1.5SD以下、または妊娠35週までは妊娠週数−6cm、36週以降は妊娠週数−7 cm以下の場合、胎児発育遅延を疑う。

  1. 正確な妊娠週数の確認
    胎児発育を評価するためには、妊娠週数を正確に決定しておくことが不可欠である。何らかの方法で排卵日が特定されていることが望ましいが、特定できない場合は、妊娠初期(8週から12週)に超音波検査による胎児頭殿長などの測定をもとに、妊娠週数を確定しておく。

  2. 超音波による発育評価
    推定体重を測定し、出生時体重基準曲線で10パーセントタイル未満であれば本症と診断する。同時に頭囲、腹囲より、タイプ分類を行なう。

  3. 胎児機能検査
    発育の診断と同時に児の未熟性や潜在する胎児ジストレスの徴候に注意し、以下の項目を経時的に測定、場合によっては分娩誘発を行なわなければならない。
    1. ノンストレステスト(NST)
    2. バイオフィジカルプロファイルスコア−(BPS)
      血流再分配(後述)により、胎児腎血流が減少すると羊水過少をきたす。
    3. 超音波ドプラによる血流解析
      不均衡型では胎児はバイタルオルガン(脳や心臓)を保護するため、循環調節(再分配)を行なう。具体的には脳の血流が増加し、腎臓や下肢への血流は低下する。中大脳動脈の血管抵抗減少、腎動脈、臍帯動脈の血管抵抗増加が観察される。
    4. 胎児・胎盤機能検査
      母体尿中エストリオール(E3)、血中ヒト胎盤ラクトゲン(hPL)は胎児副腎機能、胎盤機能、はじめ母体胎盤循環機能の指標になるが、前述の生理学的検査に比べ精度が低くあまり行なわれなくなっている。
    5. 羊水中L/S比(レシチン/スフィンゴミエリン)
      胎児の肺成熟度の指標になる。羊水穿刺が必要な侵襲性のある検査のため、他の検査で異常があり、妊娠35週未満で児の娩出が不可避であるときなどに行なう。

note治療

 生活習慣の改善、原因疾患の除去を除き、エビデンスに基づく治療(EBM)は確立していない。

  1. 原因疾患の除去
    妊娠高血圧症候群、糖尿病、TORCH症候群など合併症の治療を優先する。

  2. 安静
    側臥位では立位に比べ子宮胎盤血流量が有意に増加し、循環動態を改善する。ただし、仰臥位は増大した子宮が下大静脈を圧迫し低血圧の原因となるため避ける(仰臥位低血圧症候群)。

  3. 食事
    高蛋白(80〜100g/日)、高ビタミン食(ビタミンC、E)。

  4. 輸液療法
    10%マルトース液500ml連日投与(5日間1クール)に12%アミノ酸200ml、総合ビタミン製剤を加える。

  5. 分娩誘発
    治療に抵抗し児発育が停滞する場合や、前述の胎児機能検査で胎児ジストレスと診断される場合は児の娩出をはかり、胎外治療を行なう。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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