リスクサイン
リスク1:母体体重増加不良(4週間で1kg未満)。
リスク2:子宮底長増加不良。
リスク3:NST、BPSによる胎児異常。胎動の減少。発育停止。
病態生理
胎児は細胞増殖期、器官形成期などの形態的発育期と各臓器の機能的成熟期を経て、胎外生活に適応する能力を獲得する。子宮内胎児発育遅延はこれらの過程が、何らかの疾患や状態により障害される一種の症候群と位置づけられる。したがって、単に体重や身長が小さいだけでなく、種々の臓器の機能的未熟性も問題となり、正常胎児に比べ、新生児罹患率や死亡率が増加する。
染色体異常など胎児自身の問題による均衡型(symmetrical type, type I)と胎盤循環障害による不均衡型(asymmetrical type, type II)、およびその混合型に分類される。均衡型は頭部、躯幹ともに発育遅延がみとめられるが、不均衡型では頭部に比べ躯幹の発育が遅延する。これは胎盤からの酸素や栄養供給の低下に対し、胎児がバイタルオルガン(脳、心臓)を保護するために循環状態を調節し(再分配)対応する結果と考えられている。
具体的には超音波検査による胎児推定体重が、出生時体重基準曲線で10パーセントタイル未満(全測定値中の10%未満)の場合、本症と診断する。
症状・診断
発育遅延による自覚症状はない。通常、妊婦健診で子宮底長が各週数の平均値−1.5SD以下、または妊娠35週までは妊娠週数−6cm、36週以降は妊娠週数−7 cm以下の場合、胎児発育遅延を疑う。
- 正確な妊娠週数の確認
胎児発育を評価するためには、妊娠週数を正確に決定しておくことが不可欠である。何らかの方法で排卵日が特定されていることが望ましいが、特定できない場合は、妊娠初期(8週から12週)に超音波検査による胎児頭殿長などの測定をもとに、妊娠週数を確定しておく。
- 超音波による発育評価
推定体重を測定し、出生時体重基準曲線で10パーセントタイル未満であれば本症と診断する。同時に頭囲、腹囲より、タイプ分類を行なう。
- 胎児機能検査
発育の診断と同時に児の未熟性や潜在する胎児ジストレスの徴候に注意し、以下の項目を経時的に測定、場合によっては分娩誘発を行なわなければならない。
- ノンストレステスト(NST)
- バイオフィジカルプロファイルスコア−(BPS)
血流再分配(後述)により、胎児腎血流が減少すると羊水過少をきたす。
- 超音波ドプラによる血流解析
不均衡型では胎児はバイタルオルガン(脳や心臓)を保護するため、循環調節(再分配)を行なう。具体的には脳の血流が増加し、腎臓や下肢への血流は低下する。中大脳動脈の血管抵抗減少、腎動脈、臍帯動脈の血管抵抗増加が観察される。
- 胎児・胎盤機能検査
母体尿中エストリオール(E3)、血中ヒト胎盤ラクトゲン(hPL)は胎児副腎機能、胎盤機能、はじめ母体胎盤循環機能の指標になるが、前述の生理学的検査に比べ精度が低くあまり行なわれなくなっている。
- 羊水中L/S比(レシチン/スフィンゴミエリン)
胎児の肺成熟度の指標になる。羊水穿刺が必要な侵襲性のある検査のため、他の検査で異常があり、妊娠35週未満で児の娩出が不可避であるときなどに行なう。
治療
生活習慣の改善、原因疾患の除去を除き、エビデンスに基づく治療(EBM)は確立していない。
- 原因疾患の除去
妊娠高血圧症候群、糖尿病、TORCH症候群など合併症の治療を優先する。
- 安静
側臥位では立位に比べ子宮胎盤血流量が有意に増加し、循環動態を改善する。ただし、仰臥位は増大した子宮が下大静脈を圧迫し低血圧の原因となるため避ける(仰臥位低血圧症候群)。
- 食事
高蛋白(80〜100g/日)、高ビタミン食(ビタミンC、E)。
- 輸液療法
10%マルトース液500ml連日投与(5日間1クール)に12%アミノ酸200ml、総合ビタミン製剤を加える。
- 分娩誘発
治療に抵抗し児発育が停滞する場合や、前述の胎児機能検査で胎児ジストレスと診断される場合は児の娩出をはかり、胎外治療を行なう。