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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>血液型不適合

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

(4)血液型不適合妊娠

note概要

    1. 母体に認められない血液型(主にABO、Rh型)が胎児にある場合を血液型不適合妊娠という。
    2. 切迫流早産などで絨毛が損傷うけると、母体に胎児血が混入し、胎児赤血球に対する抗体(非定型抗体)が産生される。この抗体が胎盤を通じ胎児へ移行し、胎児の血球が破壊される状態を胎児(新生児)溶血性疾患という。
    3. 胎児では貧血、黄疸(高ビリルビン血漿)、全身浮腫(水腫)をきたし、ときに重篤な後遺症を残す。
    4. Rh(−)の場合、母体血中の抗D抗体価測定(間接ク−ムス試験)を行ない、抗体価16倍以上で胎児溶血性疾患が疑われる。
    5. 重篤な胎児貧血(ヘマトクリット25%以下)では、胎児輸血を行なう必要があり、33週以降では児を娩出後交換輸血を行なう。
    6. 分娩直後に母体血の間接ク−ムス試験、臍帯血の直接ク−ムス試験を行ない、陰性であれば抗体産生を予防する目的で、分娩後72時間以内に母体へ抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。

noteリスクサイン

リスク1:間接ク−ムス陽性(16倍未満).
リスク2:間接ク−ムス陽性(16倍以上).
リスク3:胎児水腫.胎児貧血.

noteリスクサインへの対応

  1. 妊婦がRh(−)の場合、まず夫の血液型を確かめる。もし、Rh(−)であれば本症は発症しない。
  2. 母体に自覚症状はなく、日常生活において予防することはできない。
  3. 感作を受けたことが明らかな場合(間接ク−ムス陽性)、胎児発育、胎動などに注意する。胎動の減少は児の状態が悪化していることを示唆している。
  4. 血液型不適合、特にRh(−)妊婦では、妊婦健診での超音波検査や間接ク−ムス検査が重要で、異常値の場合は新生児のためにも、積極的に精密検査や治療を受ける。

note病態生理

 母体に認められない血液型(主にABO、Rh型)が胎児にある場合を血液型不適合妊娠という。通常、母体と胎児の血液は混ざることがないが、切迫流早産などで絨毛が損傷されると胎児赤血球が母体血管に移行し(母児間輸血)、母体で胎児赤血球に対する抗体(非定型抗体)が産生される(母体感作)。この抗体が胎盤を通じ胎児へ移行し、抗原抗体反応を起こし、胎児の血球が破壊される状態を胎児(新生児)溶血性疾患という。溶血が起きると胎児では貧血、黄疸(高ビリルビン血漿)、全身浮腫(水腫)をきたし、ときに重篤な後遺症を残す。

 Rh(−)妊婦で、胎児がRh(+)の場合、母児間輸血により母体で抗D抗体が産生され、児に移行し溶血をおこす。抗D抗体は既往の妊娠、流産などの際に産生されることもある。したがって、全妊娠の約10%に母体感作が成立するが、妊娠回数を重ねるほどに高率になる(初産0.3%、5回経産25.6%)。

note症状

    1. 母体
      母体では感作の有無に関わらず無症状。

    2. 胎児、新生児
      胎児、新生児では感作の程度(抗体価)によって貧血型、重症黄疸型、全身水腫型に分類される。
      1. 貧血
        胎児期の診断には超音波ガイド下に臍帯を穿刺し、臍帯血を採取、ヘマトクリット値25%以下では胎児輸血を検討しなければならない(診断・管理参照)。胎児心拍数図でも胎児貧血の場合、サイヌソイダルパタンと呼ばれる波形が出現することがあるが、確定診断にはならない。
      2. 黄疸
        黄疸は血球破壊によりビリルビンが増加することにより発生するが、新生児期にビリルビン値が25 mg/dl以上になると、ビリルビンが血液−脳関門(blood brain barrier: BBB)を通過し、脳の基底核に沈着し核黄疸を発生するリスクが高くなる。
      3. 胎児水腫
        全身水腫型はとくに重篤で、高度の貧血と循環不全により発症し、放置すれば妊娠末期までに胎児死亡にいたることが多い。

note診断・管理

 妊娠初期に妊婦の血液型を調べ、Rh(−)の場合、夫の血液型も調べ、Rh(+)の時以下の管理を行なう。

  1. 問診
    既往妊娠、分娩歴を調べ、経産婦では新生児に高ビリルビン血症がなかったか確認する。また、前回妊娠、流産時に予防治療(後述)が行なわれていたかどうかを確認することも重要である。輸血歴にも注意する。

  2. 母体血中の抗D抗体価測定(間接ク−ムス試験)
    母体に抗D抗体がない場合(間接ク−ムス陰性)、母体は感作されておらず、妊娠初期に加え、中期、後期の3回程度再検査を行なっておく。陽性の場合は、すでに母体は感作されており、胎児溶血性疾患発症に注意し4週ごとに再検査し管理する。

  3. 羊水診断
    超音波ガイド下に羊水を採取し、羊水中のビリルビン様物質の吸光度を測定する。波長300〜700 nmで吸光度を測定し、360 nmと550 nmを結ぶ基線と450 nmにおける吸光度の差(ΔOD450)を求め、lileyの予後判定表で治療方針をきめる。

  4. 超音波検査
    経時的に胎児の観察を行ない、発育状態のみならず、皮下浮腫、循環不全の徴候に注意する。

  5. 胎児採血
    羊水検査で胎児溶血性疾患が疑われる場合、超音波ガイド下に臍帯静脈穿刺を行ない胎児貧血の程度を調べる。

  6. 直接ク−ムス試験
    新生児に行なわれる検査で、新生児血球に母体からの抗D抗体が付着しているかどうかを調べる。陽性であれば溶血性疾患が起こる可能性がある。

note治療

  1. 胎児輸血
    妊娠中期(妊娠33週未満)に間接ク−ムス試験16倍以上、羊水検査でlileyのzone 2〜3(に入るものは、胎児輸血を行なう必要があり、33週以降では児を娩出後交換輸血を行なう。胎児採血を行なった場合はヘマトクリット値25%以下が輸血の適応になる。

  2. 母体血漿交換
    妊娠初期より抗D抗体価が高値の場合、母体の血漿交換を行ない抗体価を減少させ、妊娠期間の延長をはかる。

  3. 抗Dヒト免疫グロブリン投与
    分娩直後に母体血の間接ク−ムス試験、臍帯血の直接ク−ムス試験を行ない、未感作であれば抗体産生を予防する目的で、分娩後72時間以内に母体へ抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。予防投与を怠り分娩時に感作を受けると、産生された抗体が次回妊娠に胎児溶血性疾患を引き起こす。
    また、切迫流早産などで妊娠中の自然感作が予想された場合、妊娠中であっても抗Dヒト免疫グロブリンの予防投与を行なうことがある。

noteその他の血液型不適合妊娠

 同様の血液型不適合はABO型が母児で異なる場合でも発症するが、その頻度は低い。ABO型不適合の場合、ク−ムス試験は役立たず、A抗体やB抗体の抗体価を測定する(A抗体:1024倍以上、B抗体:512倍以上が危険値)。
 また、不規則抗体と呼ばれるその他の赤血球抗体も問題となるが、重症化するものは少ない

 

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