リスクサイン
リスク1:間接ク−ムス陽性(16倍未満).
リスク2:間接ク−ムス陽性(16倍以上).
リスク3:胎児水腫.胎児貧血.
病態生理
母体に認められない血液型(主にABO、Rh型)が胎児にある場合を血液型不適合妊娠という。通常、母体と胎児の血液は混ざることがないが、切迫流早産などで絨毛が損傷されると胎児赤血球が母体血管に移行し(母児間輸血)、母体で胎児赤血球に対する抗体(非定型抗体)が産生される(母体感作)。この抗体が胎盤を通じ胎児へ移行し、抗原抗体反応を起こし、胎児の血球が破壊される状態を胎児(新生児)溶血性疾患という。溶血が起きると胎児では貧血、黄疸(高ビリルビン血漿)、全身浮腫(水腫)をきたし、ときに重篤な後遺症を残す。
Rh(−)妊婦で、胎児がRh(+)の場合、母児間輸血により母体で抗D抗体が産生され、児に移行し溶血をおこす。抗D抗体は既往の妊娠、流産などの際に産生されることもある。したがって、全妊娠の約10%に母体感作が成立するが、妊娠回数を重ねるほどに高率になる(初産0.3%、5回経産25.6%)。
診断・管理
妊娠初期に妊婦の血液型を調べ、Rh(−)の場合、夫の血液型も調べ、Rh(+)の時以下の管理を行なう。
- 問診
既往妊娠、分娩歴を調べ、経産婦では新生児に高ビリルビン血症がなかったか確認する。また、前回妊娠、流産時に予防治療(後述)が行なわれていたかどうかを確認することも重要である。輸血歴にも注意する。
- 母体血中の抗D抗体価測定(間接ク−ムス試験)
母体に抗D抗体がない場合(間接ク−ムス陰性)、母体は感作されておらず、妊娠初期に加え、中期、後期の3回程度再検査を行なっておく。陽性の場合は、すでに母体は感作されており、胎児溶血性疾患発症に注意し4週ごとに再検査し管理する。
- 羊水診断
超音波ガイド下に羊水を採取し、羊水中のビリルビン様物質の吸光度を測定する。波長300〜700 nmで吸光度を測定し、360 nmと550 nmを結ぶ基線と450 nmにおける吸光度の差(ΔOD450)を求め、lileyの予後判定表で治療方針をきめる。
- 超音波検査
経時的に胎児の観察を行ない、発育状態のみならず、皮下浮腫、循環不全の徴候に注意する。
- 胎児採血
羊水検査で胎児溶血性疾患が疑われる場合、超音波ガイド下に臍帯静脈穿刺を行ない胎児貧血の程度を調べる。
- 直接ク−ムス試験
新生児に行なわれる検査で、新生児血球に母体からの抗D抗体が付着しているかどうかを調べる。陽性であれば溶血性疾患が起こる可能性がある。
その他の血液型不適合妊娠
同様の血液型不適合はABO型が母児で異なる場合でも発症するが、その頻度は低い。ABO型不適合の場合、ク−ムス試験は役立たず、A抗体やB抗体の抗体価を測定する(A抗体:1024倍以上、B抗体:512倍以上が危険値)。
また、不規則抗体と呼ばれるその他の赤血球抗体も問題となるが、重症化するものは少ない