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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>羊水量の異常

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

(3)羊水量の異常

note概要

    1. 羊水は羊水腔を満たす液体で、妊娠初期は透明で、末期には胎児皮膚からの剥離物を混じて乳白色となる。
    2. 妊娠の時期を問わず、羊水量が800mlを越える場合を羊水過多という。
    3. 羊水量の増加に呼吸困難や悪心、嘔吐などの消化器症状、浮腫や静脈瘤、切迫早産徴候などが併発したものが羊水過多症である。
    4. 超音波検査により、羊水ポケット8 cm以上、羊水インデックス20 cm以上で羊水過多と診断する。
    5. 安静、羊水穿刺除去により治療するが、反復する場合は分娩誘発する。
    6. 超音波検査により、羊水ポケット2 cm以下、羊水インデックス5cm以下で羊水過少症と診断する。
    7. 羊水過少は、胎児の肺成熟障害や臍帯圧迫などによる胎児ジストレスの原因となり、厳重に胎児モニタリングを行なう。場合によっては人工羊水注入を行なう。

noteリスクサイン

羊水過多症
 リスク1:体重増加.悪心.嘔吐.下肢・外陰浮腫.静脈瘤.
 リスク2:急激な子宮底長増大.切迫早産徴候.
 リスク3:呼吸困難.

羊水過少症
 リスク1:体重増加不良.
 リスク2:子宮底長増加不良.
 リスク3:胎動減少.

noteリスクサインへの対応

  1. 羊水過多
    1. 児を触知しづらい場合や、妊婦の急激な体重増加をみたら本症を疑い、早めに専門医を受診する。胎児異常による場合が多く、日常生活、栄養指導などによる予防法はない。
    2. 無症状の場合、通院経過観察となるが、圧迫による消化器症状や切迫早産徴候が出現する場合は、入院管理が必要になる。
    3. 児の予後は発症週数と児の先天異常の重症度による。羊水過少に比べ胎児異常を伴うことが多い。

  2. 羊水過少症
    1. 羊水過多症に比べ頻度は少ない。
    2. 体重増加不良があれば、胎児発育遅延や本症を疑う。
    3. 子宮内胎児発育遅延に準じ生活習慣(喫煙、飲酒、食事内容・摂取量、睡眠、就労など)を確認する。
    4. 入院管理の基本は厳重な胎児モニタリングになるが、胎動の自己チェックなども併用するとよい。

note病態生理

 羊水は羊水腔を満たす液体で、胎児を子宮内で取り囲んでいる。妊娠初期は透明で、末期には胎児皮膚からの剥離物を混じて乳白色となる。羊水の産生は、絨毛膜、臍帯、胎児皮膚からの血漿成分の漏出により始まるが、妊娠中期以降、胎児尿が主たる成分となる。産生された羊水は羊膜を介して水分が再吸収され濃縮される。また、妊娠中期以降は胎児が羊水を嚥下し、消化管で吸収し、羊水量が調節されている。
 羊水量の異常はこうした産生系と吸収系の障害により発生する。

note羊水過多症

 妊娠の時期を問わず、羊水量が800mlを越える場合を羊水過多という。また、この羊水量の増加に呼吸困難や悪心、嘔吐などの消化器症状、浮腫や静脈瘤、切迫早産徴候などが併発したものが羊水過多症である。
 羊水産生の亢進か羊水吸収系の障害により発生するが、約60%は妊娠8ヶ月頃に発症する特発性(原因不明)のものである。

  1. 羊水産生が増加する病態
    1. 胎児尿量の増加、胎児奇形(脊椎破裂、無脳児)の髄液漏出、胎児大動脈狭窄、胎児腫瘍、胎児梅毒、双胎の受血児。
    2. 母体糖尿病

  2. 羊水吸収が低下する病態
    胎児消化管閉塞(特に食道、十二指腸など上部消化管)。

  3. 診断
    1. 臨床症状
      急激な子宮底長や腹囲の増大、体重増加、悪心、嘔吐、呼吸困難、下肢・外陰浮腫、静脈瘤、切迫早産徴候、胎動を感じにくいなど。
    2. 超音波検査による羊水量の診断
      (1)羊水ポケット8 cm以上
      (2)羊水インデックス(amniotic fluid index:AFI)20 cm以上
    3. 羊水胎児造影
      胎児の消化管閉塞の診断に有用だが、母体腹壁より造影剤を羊水腔に注入しなければならず、胎児へのヨード(造影剤)の影響が問題となるためあまり行なわれなくなった。

  4. 治療
    1. 安静(主に早産予防のため)。
    2. 原因検索
    3. 羊水穿刺除去
      1時間200〜500 ml程度の速度で1回1000〜2000 ml程度を除去する。
    4. 分娩誘発
      羊水穿刺は母体の羊水塞栓症のリスクとなるため、頻回に及ぶ場合は胎児の成熟を考慮し、分娩誘発する。

note羊水過少症

 羊水が異常に少ないものをいう。原因不明のことが多いが、前期破水、過期妊娠、子宮内胎児発育遅延、胎児尿路系奇形などが原因として考えられる。羊水過少は、胎児の肺成熟障害や臍帯圧迫などによる胎児ジストレスの原因となるので注意が必要である。胎児ジストレスがある場合には人工羊水の注入も考慮する。また、羊水過少が長期に及ぶと胎児四肢の運動が制限され、骨発育異常が発症する。

  1. 原因となる病態
    1. 前期破水
      羊水流出により羊水量が減少する。感染により発症することが多く、通常、胎児・胎盤の異常は伴わない。
    2. 胎児泌尿器系異常
      胎児尿の産生、あるいは排尿が妨げられる先天異常。尿路閉鎖やポッター症候群(両側腎無形成、肺低形成、四肢の骨形成異常)が代表的。
    3. 子宮内胎児発育遅延
      血流再分配により胎児尿量が減少する。
    4. 過期妊娠
      正期産の時期になると羊水は減少するが、妊娠40週を過ぎると急激に減少する。

  2. 診断
    1. 臨床症状(月数に比して子宮が小さい、胎児部分が触知しやすい)。
    2. 超音波検査による羊水量の診断
      (1)羊水ポケット2 cm以下
      (2)羊水インデックス(amniotic fluid index:AFI)5 cm以下

  3. 治療
    1. 胎児モニタリング
      バイオフィジカルプロファイルスコアー、超音波検査を経時的に観察し、羊水量変化、胎児ジストレスの出現に注意する。とくに胎児呼吸様運動が制限されると肺成熟が障害される。
    2. 人工羊水注入
      臍帯圧迫を防ぐために37℃に保った生理食塩水を子宮腔内に注入する。分娩時の羊水注入は胎児予後を改善するが、前期破水では母児の予後を改善するというEBMはない。
    3. 分娩誘発
       発育異常や胎児ジストレスが改善されない場合は分娩誘発を行なう。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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