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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>前置胎盤

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

(2)前置胎盤

note概要

    1. 受精卵が子宮峡部、または内子宮口付近へ着床することにより発生する。
    2. 全妊娠の約0.5%に認められ、胎盤が内子宮口にかかる程度により、全、一部、辺縁前置胎盤の3種類に分類される
    3. 妊娠中期から無痛性の性器出血(警告出血)をくり返し、妊娠後期では突発的な大量出血が発生する。
    4. 分娩時(帝王切開)の出血量も多く、診断がつきしだい安静入院とし、自己血を採取(貯血)しておく。
    5. 分娩は大部分、帝王切開となるが、止血困難な場合、子宮全摘になることもある。

noteリスクサイン

リスク1:なし.
リスク2:無痛性の性器出血(警告出血).
リスク3:大量の性器出血.出血性ショック.

noteリスクサインへの対応

  1. 日常生活サポート
    1. 妊娠中期以前にリスクサインは乏しいうえに、日常生活上前置胎盤を予防することは不可能である。
    2. 以前は警告出血まで本症を診断できないこともあったが、妊婦健診に超音波検査が用いられている現在では、無症状のうちに健診で診断される。
    3. 診断に際して注意することは、その時期である。妊娠24週以前に本症を診断すべきではない。妊娠16週以降、超音波上胎盤は比較的容易に描出されるが、妊娠16〜24週では子宮峡部が開大せず、しばしば誤診をまねく。したがって、妊娠20週以前に本症が疑われても、確定診断は24週以降になる。
    4. 本症と診断された場合は、可能な限り妊娠期間を延長する目的に、安静を保つようにし、場合によっては積極的に入院管理をする。また、少量であっても性器出血が出現する時は至急専門医を受診する。

  2. 看護ポイント
    1. 入院中、子宮収縮、血性分泌物の出現に注意する。通常の切迫早産では経過観察となるような軽度な子宮収縮や出血であっても、より高度な医療介入を要することがある。
    2. 妊婦は出血に対し過剰な不安を抱く。また、出血にともなう胎児ジストレス、早産への不安もある。
    3. 安静、子宮収縮抑制剤により頸管の熟化や内子宮口の開大による出血を防ぎ、分娩時の出血に対し自己血の貯血を行ない、十分な胎児モニターを行なうことにより胎児の健常性を保証していることを説明し、理解を得たい。

note病態生理

 受精卵が子宮峡部、または内子宮口付近へ着床することにより発生する。内子宮口にかかる程度により、全、一部、辺縁前置胎盤の3種類に分類される。また、胎盤が子宮下部に付着するが、内子宮口に達しない状態のものを低置胎盤というが、前置胎盤には分類されない。頻度は全妊娠の約0.5%で、初産婦(0.2%)に比べ、経産婦で増加し、10回以上の頻産婦では約5%になる。

 前置胎盤では出血が問題になる。子宮峡部の脱落膜は発育不良で薄いため、絨毛は子宮筋層内へ侵入し、血管を破壊する。とくに、前回帝王切開既往妊婦の前置胎盤では瘢痕部への絨毛侵入が容易なため癒着胎盤の頻度が高い。また、子宮下部の筋層は少なく収縮が弱いため、出血が多い原因になる。

note原因

  1. 子宮内膜の異常
    発育不全、子宮内膜炎、過度の掻爬による瘢痕などにより着床に適した部位が少なくなり、妊卵が子宮下部に着床する。

  2. 卵およびその輸送の異常
    卵の発育遅延、卵管運動の亢進、卵管の過短などにより子宮腔内に到達した妊卵の着床が遅れ、子宮下部に着床する。
    • 注)妊卵がはじめから子宮峡部に着床するものを原発性前置胎盤とよび、子宮体下部に着床した胎盤が発育の過程で二次的に子宮峡部に達するものを続発性前置胎盤とよぶ。

note症状

    1. 子宮出血
      妊娠中期から無痛性の外出血をくり返す。妊娠後期では突発的な大量出血が発生するが、分娩時が最も多い。
      1. 警告出血
        妊娠中期から疼痛を伴わない無痛性の出血が特徴。最初の出血は突発的で、多くは少量で自然に止血する。夜間睡眠中に起こることもある。これは頸管の熟化や開大により胎盤付着部にわずかな剥離や血管の破綻が生じ発生すると考えられるが、次第に再出血をくり返し、妊娠の進行に伴い量も頻度も多くなる。早期かつ多量の出血ほど前置胎盤の程度は重い傾向にある。
      2. 分娩時出血
        陣痛発作に伴い外出血が増強し、間欠時に減少する。辺縁前置胎盤や軽度の一部前置胎盤では、破水により児頭が下降すると胎盤を圧迫し止血することがある。

    2. 胎位・胎勢の異常
      胎盤により児頭が固定できず骨盤位、横位が多くなる。

note診断

  1. 臨床症状
    妊娠中期の無痛性出血は第一に本症を疑う。

  2. 超音波検査
    最も安全で診断精度が高い。経腹法、あるいは経腟法で胎盤が内子宮口を覆う像が確認できる。妊娠初期には子宮峡部が開大せず、正確に胎盤付着部位を同定できず、診断時期は妊娠22週以降が適切である。

  3. 内診所見
    子宮頸部は著しく柔軟で、腟円蓋と児頭の間に胎盤特有の柔らかい弾力性のある組織を触知する(倚褥感)。あるいは子宮口で直接胎盤を触れることがある。しかし、内診により大出血をきたすことがあり、他の方法で診断がついている場合は原則として行なわない。

  4. 鑑別診断
    常位胎盤早期剥離、切迫早産。

note治療

  1. 安静
    診断がつき次第安静を指示、場合によっては安静目的に入院とし、子宮収縮の抑制により子宮口の開大を防ぐ。出血が少量であれば、胎児ジストレスの発生に注意し、妊娠期間の延長をはかる。また、同時に自己血を採取し、分娩時(帝王切開)の出血に備える(1000 mlが目安)。

  2. 緊急処置
    急激な出血に対しては、長ガーゼによる強腟タンポンで止血をはかり、血管確保、輸血、輸液による抗ショック療法を行なう。

  3. 帝王切開
    出血の増量、胎児ジストレスの徴候があれば速やかに帝王切開により児を娩出する。前置胎盤の帝王切開では術中の出血量が増加する。特に前回帝王切開創に胎盤が付着していると癒着胎盤が多く、止血困難と判断した場合は速やかに子宮全摘を行なう。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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