リスクサイン
リスク1:夜間の腹緊。
リスク2:規則的な下腹痛。性器出血。悪臭を伴う帯下。
リスク3:月経程度の出血。破水感。強い腹痛。
リスクサインへの対応
切迫早産には安静臥床以外、確かなエビデンスレベルに裏打ちされた治療はない。言い換えれば、これほど日常生活における注意やサポートが重要になる疾患はない。未然に早産(切迫早産)を予防することが最大の治療となる。
- 生活サポート
- 妊娠30週頃には正常経過であってもわずかな子宮収縮は出現する。この子宮収縮には日内変動があり、夜間12時から早朝6時までが子宮収縮出現のピークとなる。したがって、この時間帯を中心にわずかな腹緊や収縮を感じるだけであれば、自宅安静で経過をみることが出来る。
- 問題になる子宮収縮には規則正しい周期(20-30分ごとあるいはそれ以内)で出現するものや痛みの強いもの(立てなくなったり歩けなくなるような)、あるいは長時間持続(5-10分以上)するものなどがあげられる。
- 異常な収縮を感じた場合は速かに専門医を受診することをすすめなければならない。また、少量でも妊娠12週以降の性器出血は受診の対象になる。
- 就労サポート
- 妊娠中の就労については様々な意見があるが、EBMに基づく明確な指針はない。
- 労働量を60-70%に減少させることで、妊娠中も継続することが可能と考えられているが、危険物(化学薬物、放射線)を扱うものや厳しい自然環境(高温や直射日光)での就労は避ける。
- 異常がない場合でも妊娠中は時間外労働や休日労働はさけるようにする。子宮収縮など切迫早産徴候があれば、仕事を休み安静を保つようにするべきである。
- 精神サポート
- 早産で最も問題になるのは新生児の予後である。妊娠30週未満の早産児の死亡率は高く、先天奇形を除く周産期死亡の約75%は早産児が占めている。また早産児は生存後も様々な困難を抱えていることが指摘され、1000g未満の超低出生体重児の長期予後では、その20%以上が精神発達に問題を残しているとの報告もある。
- したがって、軽微な症状でも、必要に応じ安静、あるいは入院加療を要する疾患であることをよく理解しなければならない。とくに、子宮収縮が出現しない頸管無力症や初期の感染症では無症状のことが多く病識がもてない。また、経産婦では子育てやうえの子の学校行事に追われ、入院が難しいケースもある。しかし、早産した場合の家族の負担や子どもの将来について、十分に時間をかけ考えなければならない。
- 入院中、早産患者の多くは身体的にはいたって元気である。しかし、長期の入院臥床は精神的なストレスになる。家事や家族、あるいは胎児に対する心配はつきない。重症感がないからといって安易な看護をするべきではなく、患者の声に耳をかたむけ、精神的なサポートを心がけたい。
病態生理
早産の発生機序は分娩発来の機序と同一である。すなわち、子宮収縮と頸管の熟化が起こる。頸管はコラーゲン繊維を豊富に含むが、このコラーゲン繊維と接着物質の分解により、組織が浮腫状になることを頸管の熟化という。柔らかく浮腫状になった頸管はわずかな刺激で展退、開大しやすくなる。通常、妊娠末期(37週以降)まで、抑制されるべきこれらの現象が、何らかの病的な機序により、妊娠22週から37週未満に引き起こされるのが早産である。原因により頸管熟化が先行するものと、子宮収縮が先行するものがある。
原因
早産の原因となる疾患を表2に示し、特に問題となる病態を以下に解説する。これらは後期流産の原因にも共通する。
- 頸管無力症
子宮収縮がほとんど認められないにも関わらず、頸管が開大して行くもので、早産だけでなく後期流産の原因にもなる。通常、切迫流早産の場合は妊婦自身が下腹痛、出血など何らかの徴候を感じることが多いのに対して、頸管無力症では自覚症状がないことも多い。
通常の妊婦健診で、たまたま内診を行ない偶然に腟内に膨隆した卵膜を発見することもある。この膨隆した卵膜を胎胞と呼ぶが、この胎胞が破れれば破水であり、早産にいたる危険が高くなる。
- 絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis: CAM)
産道感染症は近年大変注目され、早産の原因として盛んに研究されている。起因菌としては好気性菌でB群溶連菌、腸炎球菌、大腸菌、嫌気性菌でバクテロイデスなどが重要で、マイコプラズマ、クラミジアなども近年増化している。細菌性腟症から頸管炎、絨毛膜羊膜炎へと上行性に感染が進むが、起因菌が不明なことも多い。
炎症反応(炎症サイトカインの産生)により頸管から組織プロスタグランジン産生が促進され、子宮収縮が発生する。同時に炎症反応はコラーゲン繊維と接着物質の分解をすすめ頸管を熟化させる。
- 絨毛膜下血腫
卵膜と子宮壁の間に血液がたまる状態で、切迫流早産の4〜40%に認められる。血腫による刺激で脱落膜プロスタグランジンの産生が亢進し、子宮収縮が出現する。