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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠中期>切迫流早産

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

2.妊娠中期(15週から28週まで)のリスクサインと対応 
  (一覧はこちら)

(1)切迫流産、早産、前期破水

note概要

    1. 早産とは、妊娠22週から37週未満までの分娩をさし、早産となる危険性が高いと考えられる状態を切迫早産という。
    2. 頻度は全妊娠の約5%で、胎外生活能力の低い児が出産されることが問題となり、新生児死亡や、神経系や呼吸器系などの発達障害の原因となる。
    3. 頸管無力症、絨毛膜羊膜炎が原因として注目されている。
    4. 早期発見が重要で、超音波検査による頸管長計測、胎児癌性フィブロネクチン、顆粒球エラスターゼなどの測定が予知に有用と考えられている。
    5. 安静、子宮収縮抑制、感染治療が主体となるが、安静以外EBM(根拠に基づく医療)に乏しい。また、治療は妊娠35週までとするのが一般的である。
    6. 未然に早産(切迫早産)を予防することが最も重要で、日常生活上のアドバイスが大切になる。

noteリスクサイン

リスク1:夜間の腹緊。
リスク2:規則的な下腹痛。性器出血。悪臭を伴う帯下。
リスク3:月経程度の出血。破水感。強い腹痛。

noteリスクサインへの対応

 切迫早産には安静臥床以外、確かなエビデンスレベルに裏打ちされた治療はない。言い換えれば、これほど日常生活における注意やサポートが重要になる疾患はない。未然に早産(切迫早産)を予防することが最大の治療となる。

  1. 生活サポート
    1. 妊娠30週頃には正常経過であってもわずかな子宮収縮は出現する。この子宮収縮には日内変動があり、夜間12時から早朝6時までが子宮収縮出現のピークとなる。したがって、この時間帯を中心にわずかな腹緊や収縮を感じるだけであれば、自宅安静で経過をみることが出来る。
    2. 問題になる子宮収縮には規則正しい周期(20-30分ごとあるいはそれ以内)で出現するものや痛みの強いもの(立てなくなったり歩けなくなるような)、あるいは長時間持続(5-10分以上)するものなどがあげられる。
    3. 異常な収縮を感じた場合は速かに専門医を受診することをすすめなければならない。また、少量でも妊娠12週以降の性器出血は受診の対象になる。

  2. 就労サポート
    1. 妊娠中の就労については様々な意見があるが、EBMに基づく明確な指針はない。
    2. 労働量を60-70%に減少させることで、妊娠中も継続することが可能と考えられているが、危険物(化学薬物、放射線)を扱うものや厳しい自然環境(高温や直射日光)での就労は避ける。
    3. 異常がない場合でも妊娠中は時間外労働や休日労働はさけるようにする。子宮収縮など切迫早産徴候があれば、仕事を休み安静を保つようにするべきである。

  3. 精神サポート
    1. 早産で最も問題になるのは新生児の予後である。妊娠30週未満の早産児の死亡率は高く、先天奇形を除く周産期死亡の約75%は早産児が占めている。また早産児は生存後も様々な困難を抱えていることが指摘され、1000g未満の超低出生体重児の長期予後では、その20%以上が精神発達に問題を残しているとの報告もある。
    2. したがって、軽微な症状でも、必要に応じ安静、あるいは入院加療を要する疾患であることをよく理解しなければならない。とくに、子宮収縮が出現しない頸管無力症や初期の感染症では無症状のことが多く病識がもてない。また、経産婦では子育てやうえの子の学校行事に追われ、入院が難しいケースもある。しかし、早産した場合の家族の負担や子どもの将来について、十分に時間をかけ考えなければならない。
    3. 入院中、早産患者の多くは身体的にはいたって元気である。しかし、長期の入院臥床は精神的なストレスになる。家事や家族、あるいは胎児に対する心配はつきない。重症感がないからといって安易な看護をするべきではなく、患者の声に耳をかたむけ、精神的なサポートを心がけたい。

note病態生理

 早産の発生機序は分娩発来の機序と同一である。すなわち、子宮収縮と頸管の熟化が起こる。頸管はコラーゲン繊維を豊富に含むが、このコラーゲン繊維と接着物質の分解により、組織が浮腫状になることを頸管の熟化という。柔らかく浮腫状になった頸管はわずかな刺激で展退、開大しやすくなる。通常、妊娠末期(37週以降)まで、抑制されるべきこれらの現象が、何らかの病的な機序により、妊娠22週から37週未満に引き起こされるのが早産である。原因により頸管熟化が先行するものと、子宮収縮が先行するものがある。

note原因

 早産の原因となる疾患を表2に示し、特に問題となる病態を以下に解説する。これらは後期流産の原因にも共通する。

  1. 頸管無力症
    子宮収縮がほとんど認められないにも関わらず、頸管が開大して行くもので、早産だけでなく後期流産の原因にもなる。通常、切迫流早産の場合は妊婦自身が下腹痛、出血など何らかの徴候を感じることが多いのに対して、頸管無力症では自覚症状がないことも多い。
    通常の妊婦健診で、たまたま内診を行ない偶然に腟内に膨隆した卵膜を発見することもある。この膨隆した卵膜を胎胞と呼ぶが、この胎胞が破れれば破水であり、早産にいたる危険が高くなる。

  2. 絨毛膜羊膜炎(chorioamnionitis: CAM)
    産道感染症は近年大変注目され、早産の原因として盛んに研究されている。起因菌としては好気性菌でB群溶連菌、腸炎球菌、大腸菌、嫌気性菌でバクテロイデスなどが重要で、マイコプラズマ、クラミジアなども近年増化している。細菌性腟症から頸管炎、絨毛膜羊膜炎へと上行性に感染が進むが、起因菌が不明なことも多い。
    炎症反応(炎症サイトカインの産生)により頸管から組織プロスタグランジン産生が促進され、子宮収縮が発生する。同時に炎症反応はコラーゲン繊維と接着物質の分解をすすめ頸管を熟化させる。

  3. 絨毛膜下血腫
    卵膜と子宮壁の間に血液がたまる状態で、切迫流早産の4〜40%に認められる。血腫による刺激で脱落膜プロスタグランジンの産生が亢進し、子宮収縮が出現する。

note切迫早産

    1. 定義
      「妊娠22週以降37週未満に下腹痛(10分に1回以上の陣痛)、性器出血、破水などの症状に加えて、外側陣痛計で規則的な子宮収縮があり、内診では子宮口開大、頸管展退などBishop scoreの進行が認められ、早産の危険が高いと考えられる状態。」
      と日本産科婦人科学会により定義されている。

    2. 症状
      1. 子宮収縮による症状
        規則的、陣痛様の下腹痛、腰痛、腹部緊満感。
      2. 頸管熟化徴候
        粘液性分泌物の増加、性器出血。
      3. 破水(前期破水:PROM)
        水溶性分泌物。

    3. 診断
      1. 腟鏡診
        分泌物の性状、腟炎、頸管炎、破水の有無を診断。
      2. 分泌物細菌培養
      3. 臨床的絨毛膜羊膜炎
        絨毛膜羊膜炎は娩出後の病理検査により診断されるが、臨床的には以下の基準が用いられる。
        「38度以上の発熱と以下の4項目のうち、少なくともひとつ以上、発熱がない場合は4項目すべてがそろっている場合」
        • 母体頻脈(100bpm以上)
        • 子宮の圧痛
        • 白血球増加(15000以上)
        • 腟分泌物の悪臭
      4. 経腟超音波検査
        早産予知、管理に最も有益で重要な検査である。頸管観察により形態変化と頸管長を測定する。頸管長25mm未満は早産リスクが高く、入院管理を要する。
      5. 胎児心拍数図
        子宮収縮の回数、強さを客観的に評価する。
      6. 早産の予知マーカー
        1. 顆粒球エラスターゼ(頸管熟化の指標)
          頸管に炎症や物理的な刺激が加わると顆粒球(多核白血球)より蛋白分解酵素のエラスターゼが分泌され、頸管部のコラーゲン繊維と接着物質の分解が進む。絨毛膜羊膜炎などの炎症の予知にも役立つ。
        2. 胎児癌性フィブロネクチン
          胎児由来の糖蛋白質で、胎児血液や羊水中に多く含まれる。通常は頸管や腟には認められないが、子宮収縮や頸管の開大により卵膜が損傷すると腟・頸管内に漏出する。陽性の場合1〜2週間以内に分娩になる危険が増加する。

    4. 治療
       治療は原則、妊娠35週までとする。これは妊娠35週以降の早産児の予後が、正期産児と同等であるとするEBMによる。
      1. 安静
        安静にまさる治療はない。頸管長の短縮、感染徴候があれば積極的に入院管理する。
      2. 感染治療
        抗生物質点滴、経口投与。腟坐剤。腟内洗浄。
      3. 子宮収縮抑制
        • 塩酸リトドリン(β2刺激剤)
           標準治療だが欧米ではあまり用いられずEBMに乏しい。糖尿病、甲状腺機能亢進症では禁忌。
        • 硫酸マグネシウム
           国内では第2選択薬になるが欧米では標準治療。子宮筋へのカルシウムの流入を阻害し強力な子宮収縮抑制作用を発現する。
        • プロスタグランジン合成阻害剤
           上記治療に抵抗性の場合効果的だが、胎児の肺動脈高血圧症、肺動脈管開存異常などの副作用があり、大量、長期の使用は禁忌。
      4. 頸管縫縮術
        頸管無力症に対して行われる手術で、マクドナルド手術とシロッカー手術がある。有効性に差はないが、後者に出血、発熱などの副作用が多いとされる。
      5. 胎児モニター
        子宮収縮や感染は胎児ストレスの原因となるため、厳重な胎児モニターが必要になる。
      6. ステロイド治療
        早産が高率に予想される場合は胎児の肺成熟を促進し、呼吸窮迫症候群(RDS)を予防するため、妊娠24〜34週の間に副腎皮質ホルモンを母体に投与する。
      7. 分娩誘導
        場合によっては母児の安全のため、早産の進行を止めず、分娩誘導を行う。

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