リスクサイン
リスク1:分娩前リスク.新生児仮死.易刺激性.不活発.初期嘔吐.
リスク2:筋緊張低下.多呼吸.無呼吸発作.振戦.噴水状嘔吐.胆汁性(緑色)嘔吐.
リスク3:泡沫状嘔吐.痙攣.チアノーゼ.徐脈.
呼吸障害
新生児は出生と同時に、肺呼吸を開始しなければならず、呼吸障害をきたしやすい。呼吸障害の原因は多岐に及ぶ。
- 一過性多呼吸
60回/分以上の呼吸数で多呼吸と診断する。肺胞液の吸収障害により貯留した肺胞液が、細気管支を圧迫し1回換気量が減少するため多呼吸になる。呻吟(しんぎん)(後述)を伴い呼吸窮迫症候群(後述)様の症状を呈するが、一般的な保温、加湿、酸素投与で改善する。
- 陥没呼吸
吸気時に肋間、胸骨上窩、胸骨剣状突起の陥没を見る。呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群(後述)など気道抵抗が高い場合出現する。
- 呻吟(しんぎん)
呻吟とは、狭めた声門を呼気が通過する際に生じる唸り声をさす。呼気に抵抗を加えることで呼気時間を延長させ、肺胞の虚脱を防ごうとする防御反応である。肺胞虚脱が主体となる呼吸窮迫症候群で出現する。
- シーソー呼吸
通常の呼吸では、吸気時、横隔膜の低下による腹部の膨隆と胸郭の拡張が同時に起こる。気道の通過障害や肺胞の拡張障害があると、腹部の膨隆と胸部の拡張が交互におこり、この状態をシーソー呼吸という。この状態が進行すると陥没呼吸になる。
- 鼻翼呼吸
吸気時に鼻翼を広げる呼吸を鼻翼呼吸とよぶ。努力性呼吸の状態を示す症状で、種々の呼吸障害で認められる。
- 無呼吸
- 周期性無呼吸
50〜60/分の早い呼吸に、10〜15秒間の呼吸停止を認める。徐脈やチアノーゼを伴わない場合は生理的なものと考えられ、治療は行なわない。
- 無呼吸発作
20秒以上の呼吸停止か、それ以下でもチアノーゼや徐脈を伴うものを無呼吸発作とよぶ。胎児の未熟性に起因するものと感染(髄膜炎)、体温異常、頭蓋内出血、低血糖などによるものがある。
- 呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome: RDS)
肺サーファクタント(表面活性物質)欠乏を主因とする疾患をさす。肺サーファクタントは呼吸開始後の肺胞虚脱を防止し、その安定化に大きな役割をはたす。この欠乏は、肺の虚脱により無気肺を生じ、肺胞低換気や肺胞環流不全をきたす。
37週未満の早産児、母体の糖尿病、新生児仮死などが誘因になる。
- 診断
- 臨床症状:多呼吸、陥没呼吸、呻吟、チアノーゼ。
- 胸部X線写真:スリガラス様陰影、肺容量の低下。
- 治療
- 未熟児出生が予想される場合は、出世前に母体へのグルココルチコイド投与を行ない児の肺成熟を促す。
- 人工換気、持続陽圧呼吸を行ない、人工サーファクタント補充治療を行なう。
- 胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome: MAS)
子宮内の低酸素症では、迷走神経反射や抗利尿ホルモン分泌により胎児が排便する(p 参照)。低酸素環境が持続すると胎児はあえぎ呼吸を行ない、羊水中に浮遊する胎便を気管内に吸引し発症すると考えられている。
- 診断
- 臨床症状:羊水混濁、気道内の胎便の存在、多呼吸、呻吟、チアノーゼ。
- 胸部X線写真:肺門から末梢へ広がる粗大索状および斑状陰影と無気肺を呈する。
- 治療
- 呼吸管理
- 肺洗浄、人工サーファクタント補充治療
体温異常
新生児の至適体温は深部温(直腸温)で36.5〜37.5℃である。
- 低体温
直腸温が35℃以下の場合は低体温と診断する。新生児、とくに未熟児では体表面積が大きく皮下脂肪が少なく、熱産生量が低いために低体温をきたしやすい。低体温により新生児ではノルエピネフリンが分泌され、肺動脈や末梢血管が収縮する。その結果、肺高血圧による低酸素症が発生し、代謝性アシドーシスに陥る。体温環境の改善がなければ、死に至ることもある。
- 高体温
37.5℃以上を高体温とよぶ。感染症、頭蓋内出血など胎児自身の発熱に加え、保育器の設定など医原性のものも多い。高温に伴い、顔面紅潮、多汗、多呼吸、頻脈が出現し、高度な場合は脱水から、代謝性アシドーシスをきたす。
痙攣
新生児では焦点性発作が主で、顔面、あるいは手などに限局した痙攣が多い。全身性の痙攣の場合は、大部分が強直性痙攣で間代性痙攣を示すことは少ない。表4に原因となる疾患を示す。最も頻度が高く重要なものは低血糖(後述)である。
- 微細発作:最も頻度が高く、眼球偏位、頻回のまばたき、長時間の開眼など注意しないと見落とすこともある。
- 強直性痙攣:四肢の強直性伸展位をとり、全身をのけぞり、眼球の偏位などを伴う。
低血糖
子宮内では胎盤を介して豊富なブドウ糖が供給されていたが、出生と伴にその供給は断たれる。生後1〜2時間で、新生児の血糖値は最低になるが、通常肝臓などに貯蔵されているグリコーゲンを分解し血糖値は正常域(全血中40 mg/dl以上)に保たれる。
低血糖は児の中枢神経障害の原因になる。
- リスク因子
低出生体重児、未熟児ではグリコーゲンの蓄積が少ないうえに、インスリン分泌などの自律神経機能のコントロールが未熟で低血糖をきたしやすい。同様に胎児ジストレスや新生児仮死も蓄積エネルギーが減少しておりリスクになる。また、糖尿病合併妊娠では児のインスリン過多による低血糖が出現する。
- 症状
易刺激性、振戦、眼球運動異常、低体温、嘔吐、筋緊張低下、不活発、無呼吸発作、痙攣、チアノーゼ、徐脈など。
- 診断
血糖値が全血40 mg/dl、血漿45 mg/dl以下の場合、低血糖と診断する。
- 予防、治療
低血糖のリスクがある児では、ブドウ糖輸液(4〜6 mg/kg/min)を行なう。
低血糖と診断された場合は、20%ブドウ糖2 ml/kgを静注するか、ブドウ糖の持続輸液(4〜8 m/kg/min)を行なう。