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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top新生児>新生児期の異常徴候

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 6.新生児のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 新生児は呼吸障害をきたしやすい。一過性多呼吸(60回/分以上)、陥没呼吸、呻吟、シーソー呼吸、鼻翼呼吸、無呼吸発作などの出現に注意する。
    2. 呼吸窮迫症候群(RDS)は肺サーファクタント(表面活性物質)欠乏による呼吸障害で、早産児、母体の糖尿病、新生児仮死などが誘因になる。
    3. 嘔吐には生理的なものと病的なものがある。病的嘔吐は消化管通過障害によることが多く、泡沫状嘔吐、噴水状嘔吐、胆汁性(緑色)嘔吐など障害部位ごとに特徴的な症候がある
    4. 直腸温が35℃以下の低体温は、低酸素症、代謝性アシドーシスによる新生児死亡の原因になる。
    5. 新生児の痙攣は焦点性発作が主で、全身性の痙攣では大部分が強直性痙攣を示す。最も頻度が高い原因は低血糖である。
    6. 血糖値が全血40 mg/dl、血漿45 mg/dl以下の場合、低血糖と診断する。低出生体重児、糖尿病合併妊娠、巨大児、新生児仮死がリスクになる。

noteリスクサイン

リスク1:分娩前リスク.新生児仮死.易刺激性.不活発.初期嘔吐.
リスク2:筋緊張低下.多呼吸.無呼吸発作.振戦.噴水状嘔吐.胆汁性(緑色)嘔吐.
リスク3:泡沫状嘔吐.痙攣.チアノーゼ.徐脈.

note新生児看護ポイント

  1. 呼吸障害
    1. 新生児の呼吸は大部分横隔膜の運動による腹式呼吸であり、1回換気量は少なく、呼吸数は多い(約50回/分)。
    2. 呼吸異常を疑った場合、シルバーマンのスコアーにある項目毎に呼吸状態を評価するとよい。スコアー自身は近年あまり用いられなくなってきたが、観察項目は有用である。
    3. いずれかの項目に異常があれば、専門医の診断を仰ぐことになるが、同時に経皮的酸素飽和度モニターや心電図モニターを装着し、換気状態を評価する必要がある。

  2. 嘔吐
    1. 初期嘔吐は数日間持続することもある。これを予防するため、出生直後に気道吸引の後、吸引チューブを胃内に挿入し内容物を吸引することがあるが、児によってはチューブ挿入時に迷走神経反射による徐脈が発生するため、あまり行なうべきではない。
    2. 哺乳後の嘔吐予防には、十分な排気(ゲップ)を促すことが大切である。また、授乳後急速に仰臥位をとらせると、十分な排気にもかかわらず嘔吐をみることがある。これは体位変換により、急に胃の軸捻転がとれるための現象で、嘔吐をくり返すようであれば、授乳後しばらく(20〜30分間)抱き上げた状態で経過を観察するようアドバイスする。
    3. 授乳の時間や授乳量にこだわらず、児の要求に応じ授乳することで嘔吐を防げる場合もある。

  3. 痙攣
    1. 新生児の痙攣はしばしば重篤な疾患の徴候になる。軽微なものでも異常を感じた場合は、専門医の診断を仰ぐべきである。
    2. 痙攣と鑑別しなければならない症候に振戦がある。振戦は神経疾患や内分泌異常を疑う症候だが、生理的にも出現することがある。

  4. 低血糖
    1. 低出生体重児、巨大児でとくに注意したい。正常な児であれば生後2〜3日で血糖値は安定するが、低出生体重児(早産児)では生後1週間程度は低血糖をきたすリスクがある。
    2. 早期に授乳を開始することで、出生直後の一過性低血糖は回避できるが、振戦、痙攣、無呼吸などを伴う症候性のものはしばしば治療に抵抗し、長期間の管理が必要になる。

note呼吸障害

 新生児は出生と同時に、肺呼吸を開始しなければならず、呼吸障害をきたしやすい。呼吸障害の原因は多岐に及ぶ。

  1. 一過性多呼吸
    60回/分以上の呼吸数で多呼吸と診断する。肺胞液の吸収障害により貯留した肺胞液が、細気管支を圧迫し1回換気量が減少するため多呼吸になる。呻吟(しんぎん)(後述)を伴い呼吸窮迫症候群(後述)様の症状を呈するが、一般的な保温、加湿、酸素投与で改善する。

  2. 陥没呼吸
    吸気時に肋間、胸骨上窩、胸骨剣状突起の陥没を見る。呼吸窮迫症候群、胎便吸引症候群(後述)など気道抵抗が高い場合出現する。

  3. 呻吟(しんぎん)
    呻吟とは、狭めた声門を呼気が通過する際に生じる唸り声をさす。呼気に抵抗を加えることで呼気時間を延長させ、肺胞の虚脱を防ごうとする防御反応である。肺胞虚脱が主体となる呼吸窮迫症候群で出現する。

  4. シーソー呼吸
    通常の呼吸では、吸気時、横隔膜の低下による腹部の膨隆と胸郭の拡張が同時に起こる。気道の通過障害や肺胞の拡張障害があると、腹部の膨隆と胸部の拡張が交互におこり、この状態をシーソー呼吸という。この状態が進行すると陥没呼吸になる。

  5. 鼻翼呼吸
    吸気時に鼻翼を広げる呼吸を鼻翼呼吸とよぶ。努力性呼吸の状態を示す症状で、種々の呼吸障害で認められる。

  6. 無呼吸
    1. 周期性無呼吸
      50〜60/分の早い呼吸に、10〜15秒間の呼吸停止を認める。徐脈やチアノーゼを伴わない場合は生理的なものと考えられ、治療は行なわない。
    2. 無呼吸発作
      20秒以上の呼吸停止か、それ以下でもチアノーゼや徐脈を伴うものを無呼吸発作とよぶ。胎児の未熟性に起因するものと感染(髄膜炎)、体温異常、頭蓋内出血、低血糖などによるものがある。

  7. 呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome: RDS)
    肺サーファクタント(表面活性物質)欠乏を主因とする疾患をさす。肺サーファクタントは呼吸開始後の肺胞虚脱を防止し、その安定化に大きな役割をはたす。この欠乏は、肺の虚脱により無気肺を生じ、肺胞低換気や肺胞環流不全をきたす。
    37週未満の早産児、母体の糖尿病、新生児仮死などが誘因になる。
    1. 診断
      1. 臨床症状:多呼吸、陥没呼吸、呻吟、チアノーゼ。
      2. 胸部X線写真:スリガラス様陰影、肺容量の低下。
    2. 治療
      1. 未熟児出生が予想される場合は、出世前に母体へのグルココルチコイド投与を行ない児の肺成熟を促す。
      2. 人工換気、持続陽圧呼吸を行ない、人工サーファクタント補充治療を行なう。

  8. 胎便吸引症候群(meconium aspiration syndrome: MAS)
     子宮内の低酸素症では、迷走神経反射や抗利尿ホルモン分泌により胎児が排便する(p 参照)。低酸素環境が持続すると胎児はあえぎ呼吸を行ない、羊水中に浮遊する胎便を気管内に吸引し発症すると考えられている。
    1. 診断
      1. 臨床症状:羊水混濁、気道内の胎便の存在、多呼吸、呻吟、チアノーゼ。
      2. 胸部X線写真:肺門から末梢へ広がる粗大索状および斑状陰影と無気肺を呈する。
    2. 治療
      1. 呼吸管理
      2. 肺洗浄、人工サーファクタント補充治療

note嘔吐

    1. 生理的嘔吐
      嘔吐はしばしば出現する症状である。新生児では初回哺乳以前に羊水様の嘔吐をみるが、多くは初期嘔吐とよばれ病的意義はない。また、哺乳時にミルクと伴に多量の空気を飲み込み、ゲップと同時に嘔吐することがあるが、これもあまり病的意義はない。

    2. 病的嘔吐
      嘔吐をきたす疾患には消化管閉鎖、消化管機能異常、中枢神経系の異常がある。
      1. 泡沫状嘔吐:食道閉鎖症に特徴的。
      2. 噴水状嘔吐:幽門狭窄で生後3週間頃出現する。
      3. 凝固したミルクの嘔吐:胆汁酸を含まない嘔吐は幽門狭窄、十二指腸閉鎖など上部消化管閉塞に特徴的。
      4. 胆汁性(緑色)嘔吐:ファーター乳頭より肛門側の先天性閉塞、あるいは麻痺性腸閉塞(イレウス)などが考えられる。

note体温異常

新生児の至適体温は深部温(直腸温)で36.5〜37.5℃である。

  1. 低体温
    直腸温が35℃以下の場合は低体温と診断する。新生児、とくに未熟児では体表面積が大きく皮下脂肪が少なく、熱産生量が低いために低体温をきたしやすい。低体温により新生児ではノルエピネフリンが分泌され、肺動脈や末梢血管が収縮する。その結果、肺高血圧による低酸素症が発生し、代謝性アシドーシスに陥る。体温環境の改善がなければ、死に至ることもある。

  2. 高体温
    37.5℃以上を高体温とよぶ。感染症、頭蓋内出血など胎児自身の発熱に加え、保育器の設定など医原性のものも多い。高温に伴い、顔面紅潮、多汗、多呼吸、頻脈が出現し、高度な場合は脱水から、代謝性アシドーシスをきたす。

note痙攣

新生児では焦点性発作が主で、顔面、あるいは手などに限局した痙攣が多い。全身性の痙攣の場合は、大部分が強直性痙攣で間代性痙攣を示すことは少ない。表4に原因となる疾患を示す。最も頻度が高く重要なものは低血糖(後述)である。

  1. 微細発作:最も頻度が高く、眼球偏位、頻回のまばたき、長時間の開眼など注意しないと見落とすこともある。
  2. 強直性痙攣:四肢の強直性伸展位をとり、全身をのけぞり、眼球の偏位などを伴う。

note低血糖

 子宮内では胎盤を介して豊富なブドウ糖が供給されていたが、出生と伴にその供給は断たれる。生後1〜2時間で、新生児の血糖値は最低になるが、通常肝臓などに貯蔵されているグリコーゲンを分解し血糖値は正常域(全血中40 mg/dl以上)に保たれる。
 低血糖は児の中枢神経障害の原因になる。

  1. リスク因子
    低出生体重児、未熟児ではグリコーゲンの蓄積が少ないうえに、インスリン分泌などの自律神経機能のコントロールが未熟で低血糖をきたしやすい。同様に胎児ジストレスや新生児仮死も蓄積エネルギーが減少しておりリスクになる。また、糖尿病合併妊娠では児のインスリン過多による低血糖が出現する。

  2. 症状
    易刺激性、振戦、眼球運動異常、低体温、嘔吐、筋緊張低下、不活発、無呼吸発作、痙攣、チアノーゼ、徐脈など。

  3. 診断
    血糖値が全血40 mg/dl、血漿45 mg/dl以下の場合、低血糖と診断する。

  4. 予防、治療
     低血糖のリスクがある児では、ブドウ糖輸液(4〜6 mg/kg/min)を行なう。
     低血糖と診断された場合は、20%ブドウ糖2 ml/kgを静注するか、ブドウ糖の持続輸液(4〜8 m/kg/min)を行なう。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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