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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top偶発合併症>呼吸器疾患

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 4.偶発合併症のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 気管支喘息は気管支の攣縮や粘膜浮腫による気道狭窄と炎症をさす。胎児低酸素症の原因になり、妊娠中も継続して治療しなければならない。
    2. 結核菌は好気性グラム陽性桿菌で抗酸菌と呼ばれる。感染経路のほとんどが経気道で肺結核が最も多い。妊娠中、悪化することはなく、経胎盤感染もほとんどないが、活動性がある場合は治療を行なう。
    3. 妊娠中は、相対的な呼吸性アルカローシス状態にあり、過換気症候が発症しやすい。

noteリスクサイン

気管支喘息
リスク1:喘息の既往.
リスク2:せき.喘鳴.
リスク3:呼吸困難.

結核
リスク1:せき.痰.発熱.
リスク2:血痰.喀血.
リスク3:呼吸困難.

過換気症候群
リスク1:不安.疼痛(陣痛).呼吸数の増加.
リスク2:しびれ.頻脈.動悸.手のふるえ.
リスク3:意識障害.痙攣.

noteリスクサインへの対応

  1. 気管支喘息
    1. 妊娠中、気管支喘息は必ず継続して治療しなければならない。薬剤によっては児に影響を与える場合もあるが、症状を抑えるために必要な薬物は必ず使用する。
    2. 症状が軽微な場合は、念のため吸入薬など常時携帯する。
    3. 喘息発作が重積した場合、母体は低酸素血症に陥る。この際、母体では心臓や脳など自らの生存のために必要な臓器(バイタルオルガン)を保護するため、血流の再分配をおこす。すなわち、心臓以外の内臓器(腎臓、子宮など)や四肢への血流は血管収縮により減少する(発作中に四肢冷感が出現するのはこのためである)。このため、重篤な発作中、胎児は一時的に無酸素に近い状態に陥る可能性がある。一過性の低酸素や無酸素は、その後の子宮内の児発育に支障がなくても、出生後に脳性麻痺に代表される神経発達障害をおこす危険がある。したがって、仮に薬物にリスクがあっても妊娠中は気管支喘息を治療しておかなくてはならない。

  2. 肺結核
    1. 近年、肺結核は増加傾向にある。
    2. 原因不明の咳きや発熱が2週間以上持続するような場合は、すみやかに専門医への受診を勧める。

note病態生理

 妊娠中は子宮の増大による横隔膜の挙上により、予備呼気量と残気量が減少する。呼吸数は変化せず、一回換気量が増加し分時換気量が増加する。これによりPaCO2は低下し、呼吸性アルカローシスとなる(血液がアルカリ性に傾く)。これは胎児から母体へのCO2輸送を効率的に行なうための合目的な変化である。

note気管支喘息

 気管支喘息は気管支の攣縮や粘膜浮腫による気道狭窄と気道の炎症により特徴づけられる。喘息による母児への直接的な影響はないが、重症発作時の低酸素血症の程度によっては胎児ジストレス、胎児死亡をおこす可能性がある。
 アレルギー(即時型および遅延型)、感染、心因、内分泌自律神経失調などに気道の過敏性亢進が加わって発症する。

  1. 診断
    1. 臨床所見(呼吸困難、せき、既往歴)。
    2. 呼気の延長、喘鳴音。
    3. 好酸球の増加、PaO2の低下、胸部X線撮影。

  2. 治療
    β刺激剤、キサンチン誘導体、抗アレルギー剤、ステロイド剤などを用いる。分娩誘発に用いるプロスタグランジンは気管支収縮作用があり禁忌。

note肺結核

 結核菌は好気性グラム陽性桿菌で抗酸菌と呼ばれる。感染経路のほとんどが経気道で肺結核が最も多い。日本の罹患率(人口10万人に対し33.9)は他の先進諸国(人口10万人に対し5〜10)に比べ非常に高い。
 妊娠中、悪化することはなく、経胎盤感染もほとんどないが、活動性がある場合は治療を行なう。

  1. 診断
    1. 臨床所見(2週間以上遷延するせき、痰、発熱)。
    2. ツベルクリン反応(10 mm以上で陽性)、胸部X線撮影でスクリーニングする。
    3. 喀痰検査(培養、塗抹)による結核菌の証明が確定診断。

  2. 治療
    通常はイソニアジド(催奇形性なし)、リファンピシン(四肢短縮症の危険性)の2剤を併用する。排菌があるか治療が終了していない場合、分娩後、児を母親から隔離しなければならない。

note過換気症候群

 過換気症候群は器質的な障害がなく、発作的に肺胞過換気を生じる状態をいう。妊娠中は、前述の変化により胸式呼吸、多呼吸になりやすく、相対的な呼吸性アルカローシス状態にある。さらに、不安や精神的気質の誘因が加わることで発症しやすい。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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