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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top偶発合併症>自己免疫疾患

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 4.偶発合併症のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 自己免疫疾患とは、自己の正常組織に対し抗体(自己抗体)が産生され、抗原抗体反応が引き起こされ、自己の正常組織が障害を受ける疾患である。
    2. 妊娠という免疫的に特殊な状況下で、自己免疫疾患は増悪あるいは軽快と様々な変化を示すため、厳重な管理が必要になる。
    3. 全身性エリテマトーデスは妊娠可能年齢の女性に好発し、しばしば妊娠と合併する。
    4. 抗リン脂質抗体症候群は不妊症、習慣性流産、子宮内胎児死亡の原因となる。
    5. その他の膠原病で出産可能年齢の女性に好発し妊娠との合併が問題になるものには、進行性全身硬化症(強皮症)、多発性筋炎、皮膚筋炎、シェ−グレン症候群などがある。

noteリスクサイン

全身性エリテマトーデス
リスク1:全身倦怠.食欲不振.浮腫.息苦しさ.
リスク2:うつ状態.めまい.発熱.リンパ節腫張.流早産徴候.子宮内発育遅延.
リスク3:腎不全.

抗リン脂質抗体症候群
リスク1:不妊症.
リスク2:習慣性流産.子宮内胎児発育遅延.妊娠高血圧症候群.
リスク3:子宮内胎児死亡.常位胎盤早期剥離.

noteリスクサインへの対応

  1. 全身性エリテマトーデス
    1. 軽症や寛解期にある場合、妊娠の継続は可能である。ただし、妊娠中より、分娩後に症状が増悪する傾向がある。
    2. 症状は多彩で、妊婦毎に症状が異なるが、非妊娠時と比較し症状の増悪を判断するとよい。
    3. 流早産、死産、子宮内発育遅延などのリスクとなるため、各項目のリスクサインに注意し、対応する。
    4. 分娩後、母体から抗体(IgG)が移行し、新生児に母体と同様な臨床症状が出現することがあるが、一過性のもので改善する。

  2. 抗リン脂質抗体症候群
    1. 母体には何ら症状をみない。
    2. SLE同様、流早産、死産、子宮内発育遅延などのリスクとなるため、各項目のリスクサインに注意する。

note病態生理

 自己免疫疾患とは、自己の正常組織に対し抗体(自己抗体)が産生され、抗原抗体反応が引き起こされ、自己の正常組織が障害を受ける疾患である。自己免疫は正常な固体にも存在するが、通常は過剰な免疫反応がおこり自己を障害することがないように抑制メカニズムが存在する。原因は不明だが、こうした免疫抑制メカニズムが破綻すると、自己抗体の異常産生がおこり自己免疫疾患が発症する。

 妊娠は免疫学的にみると一種の同種移植と考えられるが、遮断抗体など特殊な免疫機構により拒絶反応を免れている。また、胎児胎盤系が産生するホルモンは母体の免疫抑制に働いている。したがって、妊娠という免疫的に特殊な状況下では、基礎疾患の増悪あるいは軽快と様々な変化が出現するため、厳重な管理が必要になる。

note全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)

 SLEは膠原病の一つだが、自己抗体の関与が大きく代表的な自己免疫疾患である。SLEは腎臓はじめ多臓器を障害する臓器非特定性自己免疫疾患で、増悪と寛解を繰り返しながら慢性に経過する。20〜30歳の妊娠可能年齢の女性に好発し、しばしば妊娠と合併する。
 妊娠直前に活動期にある場合、妊娠により増悪しやすいが、軽症例では軽快することもある。一般に、分娩前後に増悪する傾向がある。
 SLEは不妊、不育症の原因となり流早産、死産、子宮内発育遅延のリスクが高い。これはSLE患者に抗リン脂質抗体を認めることが多いためである(後述)。

  1. 妊娠許可基準
    表1に妊娠許可基準を示す。しかし、SLE合併妊娠は母児にとってきわめてハイリスクであり、厳重な管理が必要である。

  2. 症状
    1) 皮膚症状(顔面の蝶形紅斑、乳房・腹部の紅斑、爪変形、脱毛)。
    2) 全身倦怠、食欲不振、うつ状態、めまい、浮腫、息苦しさ。
    3) 発熱、関節炎、リンパ節腫張。
    4) 腹痛、痙攣など多症状。

  3. 治療
    1) 安静。
    2) 日光、寒冷、ストレス、薬物、感染などを避ける。
    3) 食事療法(妊娠高血圧症候群に準じる)。
    4) 副腎皮質ステロイド、抗リン脂質抗体がある場合はヘパリン、低容量アスピリン。

  4. 分娩管理
     自然分娩を原則とするが、分娩により増悪傾向があり、ステロイドを増量する。

表1 全身性エリテマトーデス(SLE)妊娠許可基準

  1. SLEの病態がステロイド維持量で10ヶ月以上緩解状態にあること.

  2. SLEによる重篤な臓器病変がないこと.

  3. ステロイドによる重篤な副作用の既往がないこと.

  4. 免疫抑制剤の併用がないこと.

  5. 出産後の育児が可能であること.

 

note抗リン脂質抗体症候群

 絨毛間腔、脱落膜血管内に血栓、梗塞をおこし、不妊症、習慣性流産、子宮内胎児死亡の原因となる。また、妊娠が進行した場合も子宮内胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離を発症する。

  1. 検査
    ループスアンチコアグラント(LAC)、抗カルジオリピン抗体が陽性になる。凝固系では活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長を認める。

  2. 治療
    ヘパリン、低容量アスピリン。

note関節リウマチ

 関節を主病変とし、全身の支持組織を多発性に侵す慢性の炎症性疾患である。原因不明であるが、関節滑膜中にリウマトイド因子(RF)と呼ばれる変性IgGに対する自己抗体が産生される。

 妊娠により軽快するが、分娩後、再燃・増悪する。胎児、新生児への影響はない。

 妊娠中は免疫調節薬(金製剤、免疫抑制剤)は使用できず、アスピリンや副腎皮質ステロイドを中心とした治療に切り替える。

noteその他の膠原病

 出産可能年齢の女性に好発し妊娠との合併が問題になる膠原病には、進行性全身硬化症(強皮症)、多発性筋炎、皮膚筋炎、シェ−グレン症候群などがある。
 妊娠中、母体は免疫抑制(抑制性T細胞の機能亢進、B細胞機能低下)状態にあるため、これらの疾患は軽快することが多い。しかし、分娩後は増悪する傾向がある。
 自然流産や子宮内胎児死亡が多い。シェ−グレン症候群では抗SS-A抗体、抗SS-B抗体が胎児に移行し、胎児の完全房室ブロックなどが発症し予後に影響する。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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