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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top偶発合併症>心・血管系疾患

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 4.偶発合併症のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 心疾患を合併する場合、妊娠を維持することは母体循環の負担となる。
    2. 妊娠前に心疾患の重症度を把握し、十分なカウンセリングを行なう。
    3. 妊娠28〜32週、分娩中、産褥早期(1週間)に症状が悪化しやすい。
    4. 原則的には経腟分娩を選択し、無痛(和痛)、分娩第2期の短縮(吸引・鉗子分娩)につとめる。

noteリスクサイン

リスク1:息切れ.動悸.易疲労感.
リスク2:浮腫.呼吸困難.めまい.
リスク3:胸内苦悶.失神.

noteリスクサインへの対応

  1. 妊娠前のサポート
    1. 心疾患を合併する場合、妊娠を維持することは母体循環の負担となる。
    2. 妊娠前に心疾患の重症度を把握し、妊娠の可否などについて、十分なカウンセリングを受けることが重要である。
    3. 抗凝固療法、降圧剤、抗不整脈薬の変更など必要な処置をあらかじめとっておくことが大切で、主治医と相談しておくことを勧める。

  2. 妊娠中の日常生活サポート
    1. 心疾患合併妊娠の危険性を理解し、禁煙、食生活の改善、体重管理、適切な安静度の設定を行なう。
    2. 妊娠中に感染症が深刻な問題になることがある。些細な上気道炎から細菌性心内膜炎に発展し、母体死亡にいたることもある。したがって、外出する際は季節にあった着衣やマスクの使用をし、場合によっては積極的にインフルエンザワクチン接種などを行なう。

note病態生理

 心疾患合併の頻度は全分娩の1〜3%である。

 妊娠により母体では様々な生理的変化が出現する。中でも、循環器系変化は顕著である。循環血液量と心拍出量は妊娠の進行と伴に増加し、妊娠28〜32週頃にはピークとなり、非妊娠時の約1.5倍の増加を示す。正常妊娠ではこうした増加に対し、末梢血管抵抗が低下し、腎臓や子宮への血流量を増加させている。実際、腎血流量は非妊娠時に比べ30%増加し、子宮血流量は10倍になる。これらの循環変化は母体が順調に胎児を育んで行く上に必須のものであるが、心疾患を合併した妊婦ではしばしば負担となる。

 また、分娩中は子宮収縮により静脈環流量が増加し、第2期では努責による交感神経興奮により頻脈になり、心拍出量が増加する。したがって、分娩中は心疾患合併妊婦の症状が悪化する危険な時期といえる。

 分娩後(産褥早期)、子宮は急速に収縮し静脈環流量が増加するが、循環血液量は急には減少しないため、一過性に心負担は増加する。この心拍出量増加は、産後の利尿により循環血液量が減少するまで継続する。産褥期に一過性に浮腫が増悪することがあるが、こうした循環器系変化のためと考えられる。

note妊娠許可基準

 NYHA(New York Heart Association)分類I度では母体死亡率はほぼ0%で妊娠継続に影響ない。一方、NYHA III、IV度や母体死亡率の高い疾患では、妊娠を許可するべきではなく、場合によっては人工妊娠中絶の適応となる。

note症状

 呼吸困難、起坐呼吸、胸内苦悶、易疲労感、めまい、失神などが心疾患を疑わせる徴候である。これらの症状は、妊娠28〜30週、分娩時、産褥早期(1週間)に出現しやすい。

 また、母体心機能に問題があれば胎児、胎盤循環不全から子宮内胎児発育遅延をきたす。

note妊娠管理

    1. 心機能評価(心電図、超音波、胸部X線検査など)
      少なくとも妊娠初期(妊娠継続の可否)と妊娠28〜30週(分娩時期や方法の選択)頃には無症状であっても評価しておく必要がある。

    2. 安静
      非妊娠時、運動や生活に制限がない場合でも、妊娠中は負担が増えるため(病態生理参照)安静に心掛ける。

    3. 食事
      貧血は心臓への負担を増すため、鉄分やミネラル、ビタミンの摂取に注意し規則正しい食生活をアドバイスする。高血圧に対しては極端な塩分制限は行なわない。

note分娩管理

  1. 経腟分娩を原則とする。
    母体の心機能が悪化する場合は、児の成熟や分娩の進行にかかわらず、帝王切開を選択することがある。しかし、開腹手術やそれに伴う麻酔手技は母体循環に負担となり、切迫した症状がなければ経腟分娩を選択する。

  2. 無痛分娩(和痛分娩)
    硬膜外麻酔や鎮静鎮痛剤を用い、疼痛による過度の循環変化を抑制する。ただし、硬膜外麻酔は交感神経遮断による末梢血管抵抗低下(血管拡張)により心臓への静脈環流量が減少するため、肺高血圧や大動脈狭窄では負担を増大する。

  3. 吸引・鉗子分娩
    分娩第2期の短縮と努責(いきみ)を軽くするために行なう。

  4. 分娩中の母体心機能モニター
    心電図、酸素飽和度(サチュレーション)モニターはもとより、場合によっては中心静脈圧をモニターする。

  5. 薬物療法
    細菌性心内膜炎を予防するため分娩前(中)より抗生剤投与をおこなう。
    麦角アルカロイド(パルタンM錠、メテナリン錠)は、血管収縮作用があり心負担を増すため用いない。

note高血圧症

 高血圧症合併妊娠の頻度は全妊娠の5〜10%で、母体死亡の原因の15%を占める。また、子宮胎盤循環不全の原因となり子宮内胎児発育不全や胎児死亡を合併しやすい。基本的な管理については妊娠高血圧症候群に準ずる。

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