リスクサイン
リスク1:息切れ.動悸.易疲労感.
リスク2:浮腫.呼吸困難.めまい.
リスク3:胸内苦悶.失神.
病態生理
心疾患合併の頻度は全分娩の1〜3%である。
妊娠により母体では様々な生理的変化が出現する。中でも、循環器系変化は顕著である。循環血液量と心拍出量は妊娠の進行と伴に増加し、妊娠28〜32週頃にはピークとなり、非妊娠時の約1.5倍の増加を示す。正常妊娠ではこうした増加に対し、末梢血管抵抗が低下し、腎臓や子宮への血流量を増加させている。実際、腎血流量は非妊娠時に比べ30%増加し、子宮血流量は10倍になる。これらの循環変化は母体が順調に胎児を育んで行く上に必須のものであるが、心疾患を合併した妊婦ではしばしば負担となる。
また、分娩中は子宮収縮により静脈環流量が増加し、第2期では努責による交感神経興奮により頻脈になり、心拍出量が増加する。したがって、分娩中は心疾患合併妊婦の症状が悪化する危険な時期といえる。
分娩後(産褥早期)、子宮は急速に収縮し静脈環流量が増加するが、循環血液量は急には減少しないため、一過性に心負担は増加する。この心拍出量増加は、産後の利尿により循環血液量が減少するまで継続する。産褥期に一過性に浮腫が増悪することがあるが、こうした循環器系変化のためと考えられる。
妊娠許可基準
NYHA(New York Heart Association)分類I度では母体死亡率はほぼ0%で妊娠継続に影響ない。一方、NYHA III、IV度や母体死亡率の高い疾患では、妊娠を許可するべきではなく、場合によっては人工妊娠中絶の適応となる。
症状
呼吸困難、起坐呼吸、胸内苦悶、易疲労感、めまい、失神などが心疾患を疑わせる徴候である。これらの症状は、妊娠28〜30週、分娩時、産褥早期(1週間)に出現しやすい。
また、母体心機能に問題があれば胎児、胎盤循環不全から子宮内胎児発育遅延をきたす。
高血圧症
高血圧症合併妊娠の頻度は全妊娠の5〜10%で、母体死亡の原因の15%を占める。また、子宮胎盤循環不全の原因となり子宮内胎児発育不全や胎児死亡を合併しやすい。基本的な管理については妊娠高血圧症候群に準ずる。