子宮筋腫
妊娠中、子宮筋腫は浮腫状肥大、脂肪変性、壊死することがあるが、必ずしも増大するものではない。また、流早産や常位胎盤早期剥離の原因とされるが明確なEBMはなく、妊娠中の筋腫核出術はそのリスクがまさり、禁忌と考えられている。
基本的には保存治療とし、分娩障害となる場合は帝王切開を行なうが、この場合もあえて筋腫核出術は行なわない。
卵巣腫瘍
妊娠に合併する卵巣嚢胞の多くは黄体嚢胞である。直径6〜7cm程度までのものは妊娠14〜16週までに消失する。他の卵巣腫瘍では皮様嚢腫が多い。
直径が10cmを越える場合は、茎捻転(卵巣腫瘍が卵管や卵巣固有靱帯を巻き込みねじれた状態で急激な腹痛を伴う)や分娩障害を起こすことがあり、妊娠中であっても手術の適応となる。手術時期は黄体嚢胞との鑑別と胎児予後(流産率の減少)を考慮し、妊娠12週以降が適当である。
卵巣癌が疑われる場合は、妊娠時期に関わらず手術療法を選択し、一時的には片側(病側)の卵巣切除ないしは付属器切除を行ない確定診断(病理検査)を行なう。癌と診断されれば、安全に生児を得ることが可能な週数まで待機し、帝王切開(週数によっては経腟分娩)後、根治治療を行なう。しかし、進行期によっては癌治療を優先することもある。
子宮頸癌(子宮頸部の上皮異常)
子宮頸癌は全妊婦の0.05%に合併する。
リスク因子に初交年齢が低く(16歳以下)、性交相手が多数(4人以上)なことがあげられる。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症との関連が注目され、頸部浸潤癌の約90%から16、18、31、33、35、52、58、61型ヒトパピローマウイルスが検出されている。
- 症状
初期は無症状だが、進行期癌では不正性器出血や帯下の増加をみる。
- 診断
腟、頸管細胞診、コルポスコープ(子宮腟部拡大鏡)、組織診による。
- 治療(表1)
- 子宮頸部軽度・中等度異形成
非妊娠時同様経過観察する。妊娠中も3ヶ月ごとに細胞診による検診を行なう。
- 子宮頸部高度異形成、上皮内癌
非妊娠時であれば円錐切除術の適応になる。妊娠中は慎重に経過観察し、浸潤癌(Ia期以上)に進行しなければ自然分娩可能で、分娩後あらためて再評価し治療方針をきめる。妊娠中に円錐切除を行なう場合、頸管縫縮術を付加することもある。
- Ia期
非妊娠時であれば円錐切除術あるいは単純子宮全摘術の適応となる。妊娠中?a期が疑われた場合、診断を確定するため円錐切除術を行なう。それ以上の進行がなければ慎重に経過観察する。
- IbからIIb期
非妊娠時であれば広汎子宮全摘術の適応となる。妊娠21週未満であれば、妊娠子宮ごと広汎子宮全摘術、妊娠22週以降であれば帝王切開と同時に広汎子宮全摘術が原則となる。しかし、妊娠の継続を強く希望する場合は、安全に生児を得ることが可能な週数まで待機し、帝王切開と広汎子宮全摘術を行なうことになるが、癌進行の可能性も十分に説明しなければならない。
- III、IV期
非妊娠時であっても外科的に病変を完全摘出することは困難で、放射線療法や化学療法が行なわれる。妊娠中の治療も同様で帝王切開後、放射線療法や化学療法を行なう。ただし、Ib期同様挙児に対する考え方は様々で、十分な説明と同意(インフォームドコンセント)が必要になる。