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book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

 4.偶発合併症のリスクサインと対応(一覧はこちら)

note概要

    1. 腟、外陰炎は妊娠中、胎児に影響することはないが、分娩時に産道感染をおこす可能性があり治療しておく。
    2. 尖圭コンジローマは産道感染し、新生児の難治性喉頭乳頭腫を発症することがあり、凍結、電気メス切除、レーザー焼灼など外科的治療を行なう。
    3. 子宮筋腫は妊娠中必ずしも増大するものではなく、原則的に経過観察する。
    4. 卵巣腫瘍は悪性の疑いがあるか、直径10 cm以上のものは妊娠12週以降手術を行なう。
    5. 子宮頸癌は妊娠中であっても治療しなければならない。進行例で、妊娠21週未満であれば、妊娠子宮ごと広汎子宮全摘術、妊娠22週以降であれば帝王切開と同時に広汎子宮全摘術が原則となる。

noteリスクサイン

  1. 腟、外陰炎
    リスク1:帯下の増加.外陰浮腫.
    リスク2:掻痒感.
    リスク3:なし.

  2. 卵巣腫瘍
    リスク1:腹部緊満感.
    リスク2:急激な下腹痛.
    リスク3:ショック.

  3. 子宮頸癌
    リスク1:なし.
    リスク2:帯下の増加.不正性器出血.
    リスク3:多量の性器出血.

noteリスクサインへの対応

  1. 子宮筋腫
    1. 子宮筋腫の取り扱いは、しばしば施設ごとあるいは医師ごとに異なることがある。これは子宮筋腫を合併することによる流早産発生や妊娠予後に関する明確なエビデンスがないためである。
    2. 妊娠中子宮筋腫は増大すると考えられてきたが、最近の研究によれば必ずしも増大しないことが報告されている。したがって、自覚症状(過多月経、月経痛、不妊症)や他覚所見(貧血、悪性の可能性)のない場合、妊娠前の予防的な治療は必ずしも必要なく、その適応は症例ごとに慎重に検討しなければならない。
    3. 妊娠中の手術も大変危険であり、激痛などよほどの症状がない限り経過観察が妥当である。

  2. 卵巣腫瘍
    1. 卵巣腫瘍の取扱いは妊婦、非妊婦であまりかわらない。
    2. 手術を行なわなければならない状態は、大きいもの(7−8 cm以上)、悪性が疑われるもの、急激な痛みが出現するものである。
    3. 妊娠中の卵巣腫瘍の手術は比較的安全に行なうことができ、この3条件に合致する場合には、手術を受けることが勧められる。
    4. 放置し、茎捻転や破裂すれば高率に流早産をおこす。

  3. 悪性腫瘍
    1. 妊娠中、悪性腫瘍が合併した場合、想像以上の精神的ストレスをうける。すべての妊婦は挙児を楽しみに妊娠期間を過ごしており、妊娠の継続を希望しない妊婦はいない。そこで、大切になるのはEBMである。妊娠を継続した場合に予想される病状変化と生命予後(5年生存率など)を正しく理解し、医学的に考えられる最適な治療法をうけるべきである。
    2. 初期のものではある程度安全に妊娠を継続できる。妊婦、あるいはその家族の中には、過度の心配から、不必要な妊娠中絶を希望する場合も少なくないが、冷静に判断して頂きたい。
    3. 進行した浸潤癌の場合、妊娠中より治療を併用することがある。こうした場合は結論を焦らず、児への影響、あるいは放置した場合の妊産婦の予後など、十分な説明を受け、理解、納得した上で治療法を選択したい。
    4. 悪性腫瘍は必ずしも、妊婦本意に考えてあげられない難しい領域であり、精神看護の果たす役割が大きい。

note外陰性疾患

  1. 腟炎、外陰炎
    妊娠中、ホルモンの影響により腟分泌物は増加し、外陰も充血し湿潤する。真菌および細菌性腟外陰炎がおきやすい。妊娠中、胎児に影響することはないが、分娩時に産道感染をおこす可能性があり治療を要する。
    真菌(カンジダ)には抗真菌薬、トリコモナスや細菌性のものには抗生物質の腟錠や軟膏を用いる。抗真菌薬はわずかながら母体血中に移行するため、器官形成期(妊娠12週ごろまで)の投与は注意を要する。抗生物質の腟錠(クロマイ、フラジール)は母体血中への移行は無視でき、児へも影響はない。

  2. 尖圭コンジローマ
    ヒトパピローマウイルス感染によるが、妊娠により性器に広がり、産道内に増殖する。このため新生児は産道感染し、難治性の喉頭乳頭腫を発症することがある。
    軽症の場合は抗ウイルス剤(アラセナA)軟膏を用いるが、妊娠中は外科的に凍結、電気メス切除、レーザー焼灼などが勧められる。

note子宮筋腫

 妊娠中、子宮筋腫は浮腫状肥大、脂肪変性、壊死することがあるが、必ずしも増大するものではない。また、流早産や常位胎盤早期剥離の原因とされるが明確なEBMはなく、妊娠中の筋腫核出術はそのリスクがまさり、禁忌と考えられている。
 基本的には保存治療とし、分娩障害となる場合は帝王切開を行なうが、この場合もあえて筋腫核出術は行なわない。

note卵巣腫瘍

 妊娠に合併する卵巣嚢胞の多くは黄体嚢胞である。直径6〜7cm程度までのものは妊娠14〜16週までに消失する。他の卵巣腫瘍では皮様嚢腫が多い。

 直径が10cmを越える場合は、茎捻転(卵巣腫瘍が卵管や卵巣固有靱帯を巻き込みねじれた状態で急激な腹痛を伴う)や分娩障害を起こすことがあり、妊娠中であっても手術の適応となる。手術時期は黄体嚢胞との鑑別と胎児予後(流産率の減少)を考慮し、妊娠12週以降が適当である。

 卵巣癌が疑われる場合は、妊娠時期に関わらず手術療法を選択し、一時的には片側(病側)の卵巣切除ないしは付属器切除を行ない確定診断(病理検査)を行なう。癌と診断されれば、安全に生児を得ることが可能な週数まで待機し、帝王切開(週数によっては経腟分娩)後、根治治療を行なう。しかし、進行期によっては癌治療を優先することもある。

note子宮頸癌(子宮頸部の上皮異常)

 子宮頸癌は全妊婦の0.05%に合併する。
 リスク因子に初交年齢が低く(16歳以下)、性交相手が多数(4人以上)なことがあげられる。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症との関連が注目され、頸部浸潤癌の約90%から16、18、31、33、35、52、58、61型ヒトパピローマウイルスが検出されている。

  1. 症状
    初期は無症状だが、進行期癌では不正性器出血や帯下の増加をみる。

  2. 診断
    腟、頸管細胞診、コルポスコープ(子宮腟部拡大鏡)、組織診による。

  3. 治療(表1)
    1. 子宮頸部軽度・中等度異形成
      非妊娠時同様経過観察する。妊娠中も3ヶ月ごとに細胞診による検診を行なう。
    2. 子宮頸部高度異形成、上皮内癌
      非妊娠時であれば円錐切除術の適応になる。妊娠中は慎重に経過観察し、浸潤癌(Ia期以上)に進行しなければ自然分娩可能で、分娩後あらためて再評価し治療方針をきめる。妊娠中に円錐切除を行なう場合、頸管縫縮術を付加することもある。
    3. Ia期
      非妊娠時であれば円錐切除術あるいは単純子宮全摘術の適応となる。妊娠中?a期が疑われた場合、診断を確定するため円錐切除術を行なう。それ以上の進行がなければ慎重に経過観察する。
    4. IbからIIb期
      非妊娠時であれば広汎子宮全摘術の適応となる。妊娠21週未満であれば、妊娠子宮ごと広汎子宮全摘術、妊娠22週以降であれば帝王切開と同時に広汎子宮全摘術が原則となる。しかし、妊娠の継続を強く希望する場合は、安全に生児を得ることが可能な週数まで待機し、帝王切開と広汎子宮全摘術を行なうことになるが、癌進行の可能性も十分に説明しなければならない。
    5. III、IV期
      非妊娠時であっても外科的に病変を完全摘出することは困難で、放射線療法や化学療法が行なわれる。妊娠中の治療も同様で帝王切開後、放射線療法や化学療法を行なう。ただし、Ib期同様挙児に対する考え方は様々で、十分な説明と同意(インフォームドコンセント)が必要になる。

表1 子宮頸部の上皮異常と子宮頸癌の分類と治療

分類

治療方針

妊娠中

非妊娠時

子宮頸部異形成
軽 度
中等度
高 度

 
 
経過観察
 

 
経過観察
経過観察
円錐切除術

上皮内癌

経過観察

円錐切除術

進行期癌
Ia期

 
円錐切除術

 
円錐切除術or単純子宮全摘術

Ib期
IIa期
IIb期

帝王切開、広汎子宮全摘術

広汎子宮全摘術

III期
IV期

帝王切開後
放射線療法、化学療法

放射線療法、化学療法

 

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