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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠前期>多胎妊娠

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

1.妊娠前期(4週から14週まで)
のリスクサインと対応(一覧はこちら)

(4)多胎妊娠

note概略

    1. 2つ以上胎児を同時に子宮内に有する状態を多胎という。2児の場合を双胎、3児の場合を3胎、以下4胎、5胎という。
    2. 双胎は母体120例に1例、3胎は4500例に1例程度の発症頻度だが、近年、不妊治療(体外受精・胚移植、排卵誘発剤など)の進歩により増加傾向にある。
    3. 双胎の予後は、卵性(一卵性、二卵性)によらず、胎児の有する羊膜、絨毛膜の数(膜性)による要素が重要で、妊娠初期の膜性診断(羊膜、絨毛膜の数を把握すること)が重要になる。
    4. 双胎の場合、周産期死亡率(分娩前後に児を失う率)は2絨毛膜2羊膜性で10〜20%、一絨毛膜二羊膜性で30〜40%、一絨毛膜一羊膜性で50〜60%と単胎(0.5%)と比較しいずれも高い頻度である。
    5. 早産と妊娠高血圧症候群を合併しやすく、その予防・治療と双胎間輸血症候群の早期発見が予後を左右する。
    6. 双胎では37〜38週が至適分娩時期になる。第1児が頭位であれば、経腟分娩を試みるが、直ちに帝王切開に切り替えられる体制で分娩にのぞむ(ダブルセットアップ)。
    7. 多胎は単胎妊娠に比べ様々な問題があり、精神的なケアが大切で妊娠中はもとより育児に関するアドバイスが必要になる。

noteリスクサイン

リスク1:腰痛、むくみなどのマイナートラブル.
リスク2:切迫早産徴候.下肢静脈瘤.
リスク3:少量性器出血.破水.

noteリスクサインへの対応

    1. 日常生活サポート
      1. 双胎では子宮の増大するスピードが早いため早産徴候が出現しやすい。早産に準じ、過度の運動や就労をさけるようにする。
      2. 大きい子宮の圧迫により下肢の浮腫、静脈瘤になりやすく、長時間の立ち仕事をさけ、下肢を高くし休むようにする。
      3. 静脈瘤には弾性ストッキングを着用する。

    2. 栄養サポート
      1. 双胎では単胎より循環血液量が増加し、相対的な貧血(水血症)や妊娠高血圧症候群が発症しやすい。
      2. 単胎以上に、鉄分を多く含む食品(緑黄色野菜、大豆、肉、レバーなど)を取り、水分、塩分の摂取に注意する。
      3. ビタミンCは鉄分の吸収を助け、様々な循環障害を改善するため、サプリメントなども利用し、積極的に摂取する。

    3. 精神サポート
      1. 不妊治療の発達により二卵性双胎、あるいは3胎など多卵性の多胎が増加している。
      2. 母体合併症の頻度が高いことや、児の死亡率が高いことを正しく理解しなければならない。また、こうしたリスクを減少させるため、入院など厳重な管理が必要になる。
      3. 妊娠初期(妊娠10週まで)に必ず膜性診断を行なうため、専門医を受診する。
      4. 双胎の場合、出生後の育児をストレスに感じている妊婦も多い。個別に具体的な対応をアドバイスする必要があるが、多くの場合、夫あるいは両親の協力が不可欠になる。

note病態生理

 2つ以上胎児を同時に子宮内に有する状態を多胎という。2児の場合を双胎、3児の場合を3胎、以下4胎、5胎という。欧米では双胎は80例に1例、3胎は6400例に1例といわれているが、東洋人では少なく、双胎は120例に1例、品胎は45000例に1例である。多胎の中では双胎が最多であるが、双胎のうち1つの受精卵から発生したものを一卵性、2つの受精卵から発生したものを二卵性双胎と呼ぶ。よって、一卵性では同一の染色体情報を持ち、二卵性では異なっている。一卵性の場合、遺伝は無関係で原因不明であり、二卵性の双胎は主に母系遺伝が関与する。近年、排卵誘発剤の使用や胚移植により多胎妊娠が増加傾向にあるが、この場合の双胎は二卵性である。

 双胎の予後は、卵性によらず、胎児の有する羊膜、絨毛膜の数(膜性)による要素が大きい。通常、胎児は羊膜1枚と絨毛膜1枚に包まれて生育し、二卵性の場合は各々の胎児が羊膜と絨毛膜をそれぞれ有するため、膜性診断としては二絨毛膜二羊膜性双胎と呼ばれる。これに対し、一卵性の場合は1受精卵から2つの卵に分離したタイミングによって羊膜と絨毛膜の数が異なる。即ち、ごく早期に分離した場合は二卵性の場合と同じく、各々の胎児が羊膜と絨毛膜をそれぞれ有するため、二絨毛膜二羊膜双胎となるが、分離の時期が少し遅くなると、一絨毛膜二羊膜双胎、さらに遅れると一絨毛膜一羊膜双胎となる。分離が遅れれば遅れるほど、独立性が低くなり、予後も悪くなる。

note診断

 妊娠初期(妊娠10週まで)に超音波検査により、複数の胎嚢あるいは胎児を確認する。また、同時に膜性診断を行なうことが重要である。

note妊娠経過

 双胎では、1胎児のみを有する単胎妊娠に比べて子宮の増大するスピードも早く、切迫流産や切迫早産の危険が高い。妊娠末期の母体の循環血液量が非妊娠時の1.5倍に増加し(単胎は1.3倍)し、貧血や妊娠高血圧症候群にもなりやすい。また、胎盤が完全に分離している場合を除き双胎間輸血症候群(後述)となる危険性がある。妊娠の初期には一児死亡が起きる頻度も高く、妊娠の初期に胎嚢が2つ認められたあとで胎嚢が1つ消失したものを、特にバニシング・ツイン(vanishing:消える)と呼び、双胎の10〜15%に見られる。しかし、妊娠の初期にバニシング・ツインとなったものは、中期以降の1児死亡に比べ、生存している児に与える影響は非常に少なく、児の予後は良好である。

note双胎間輸血症候群

 一絨毛膜双胎で胎盤の吻合血管を介して2児間に循環血液量の不均衡が生じる状態。供血児は貧血、受血児は多血になる。双胎では最も重篤な合併症である。

  1. 供血児
    循環血液量の減少(貧血)から子宮内胎児発育遅延(受血児推定体重の85%以下で本症と診断)が発症し、腎循環不全から乏尿による羊水過少、腎不全をきたす。

  2. 受血児
    循環血液量の増加(多血)から心肥大、心不全による浮腫(胎児水腫)、尿量の増加による羊水過多を来たす。

 一絨毛膜二羊膜双胎の場合この症状が進行すると、受血児の羊水腔が増大し、羊水腔が少ない供血児は胎動が制限され動けなくなるためスタック・ツイン(stuck:動けない)と呼ばれる状態になり、高率に胎児死亡をきたす。

note管理指針

  1. 一絨毛膜性双胎
    妊娠24週から管理入院。早産や妊娠高血圧症候群の徴候に注意し、胎児推定体重、羊水量の不均衡、胎児心拍数モニタリングの異常などをチェックする。妊娠28〜30週以降、異常がなければ外来フォローアップとする。管理入院について欧米の報告では、周産期予後の改善につながらないとするものもあるが、本邦では多くの施設で好成績が報告されている。

  2. 二絨毛膜性双胎
    外来でフォローアップするが、異常が疑われれば入院管理とする。

note分娩経過

 単胎の至適分娩時期が40週0日であるのに対し、双胎では37〜38週になる。分娩第1期では、子宮筋の過度伸展のため微弱陣痛、遷延分娩が起きやすい。第1児娩出後10〜20分で第2児の胎胞が形成され、破水後第2児が娩出する。さらに、20〜30分後両児の胎盤が剥離して同時に娩出する。
 第1児が頭位であれば第2児の胎位に関わらず、経腟分娩を試みるが、直ちに帝王切開に切り替えられる体制で分娩にのぞむようにする(ダブルセットアップ)。

 分娩中の合併症で最も重篤なものは、両児の先進部が同時に下降し、引っ掛かるもので、懸鉤(けんこう:interlocking)と呼ばれる。胎児の還納(子宮内に戻す)を試み、直ちに帝王切開するか、断頭術や切胎術により1児を犠牲にし、他児を娩出しなければならない。

note予後

 母体では妊娠高血圧症候群、微弱陣痛、弛緩出血を合併することが多く、単胎妊娠に比べ母体死亡率はやや高い。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科医局
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