リスクサイン
リスク1:腰痛、むくみなどのマイナートラブル.
リスク2:切迫早産徴候.下肢静脈瘤.
リスク3:少量性器出血.破水.
病態生理
2つ以上胎児を同時に子宮内に有する状態を多胎という。2児の場合を双胎、3児の場合を3胎、以下4胎、5胎という。欧米では双胎は80例に1例、3胎は6400例に1例といわれているが、東洋人では少なく、双胎は120例に1例、品胎は45000例に1例である。多胎の中では双胎が最多であるが、双胎のうち1つの受精卵から発生したものを一卵性、2つの受精卵から発生したものを二卵性双胎と呼ぶ。よって、一卵性では同一の染色体情報を持ち、二卵性では異なっている。一卵性の場合、遺伝は無関係で原因不明であり、二卵性の双胎は主に母系遺伝が関与する。近年、排卵誘発剤の使用や胚移植により多胎妊娠が増加傾向にあるが、この場合の双胎は二卵性である。
双胎の予後は、卵性によらず、胎児の有する羊膜、絨毛膜の数(膜性)による要素が大きい。通常、胎児は羊膜1枚と絨毛膜1枚に包まれて生育し、二卵性の場合は各々の胎児が羊膜と絨毛膜をそれぞれ有するため、膜性診断としては二絨毛膜二羊膜性双胎と呼ばれる。これに対し、一卵性の場合は1受精卵から2つの卵に分離したタイミングによって羊膜と絨毛膜の数が異なる。即ち、ごく早期に分離した場合は二卵性の場合と同じく、各々の胎児が羊膜と絨毛膜をそれぞれ有するため、二絨毛膜二羊膜双胎となるが、分離の時期が少し遅くなると、一絨毛膜二羊膜双胎、さらに遅れると一絨毛膜一羊膜双胎となる。分離が遅れれば遅れるほど、独立性が低くなり、予後も悪くなる。
診断
妊娠初期(妊娠10週まで)に超音波検査により、複数の胎嚢あるいは胎児を確認する。また、同時に膜性診断を行なうことが重要である。
妊娠経過
双胎では、1胎児のみを有する単胎妊娠に比べて子宮の増大するスピードも早く、切迫流産や切迫早産の危険が高い。妊娠末期の母体の循環血液量が非妊娠時の1.5倍に増加し(単胎は1.3倍)し、貧血や妊娠高血圧症候群にもなりやすい。また、胎盤が完全に分離している場合を除き双胎間輸血症候群(後述)となる危険性がある。妊娠の初期には一児死亡が起きる頻度も高く、妊娠の初期に胎嚢が2つ認められたあとで胎嚢が1つ消失したものを、特にバニシング・ツイン(vanishing:消える)と呼び、双胎の10〜15%に見られる。しかし、妊娠の初期にバニシング・ツインとなったものは、中期以降の1児死亡に比べ、生存している児に与える影響は非常に少なく、児の予後は良好である。
双胎間輸血症候群
一絨毛膜双胎で胎盤の吻合血管を介して2児間に循環血液量の不均衡が生じる状態。供血児は貧血、受血児は多血になる。双胎では最も重篤な合併症である。
- 供血児
循環血液量の減少(貧血)から子宮内胎児発育遅延(受血児推定体重の85%以下で本症と診断)が発症し、腎循環不全から乏尿による羊水過少、腎不全をきたす。
- 受血児
循環血液量の増加(多血)から心肥大、心不全による浮腫(胎児水腫)、尿量の増加による羊水過多を来たす。
一絨毛膜二羊膜双胎の場合この症状が進行すると、受血児の羊水腔が増大し、羊水腔が少ない供血児は胎動が制限され動けなくなるためスタック・ツイン(stuck:動けない)と呼ばれる状態になり、高率に胎児死亡をきたす。
分娩経過
単胎の至適分娩時期が40週0日であるのに対し、双胎では37〜38週になる。分娩第1期では、子宮筋の過度伸展のため微弱陣痛、遷延分娩が起きやすい。第1児娩出後10〜20分で第2児の胎胞が形成され、破水後第2児が娩出する。さらに、20〜30分後両児の胎盤が剥離して同時に娩出する。
第1児が頭位であれば第2児の胎位に関わらず、経腟分娩を試みるが、直ちに帝王切開に切り替えられる体制で分娩にのぞむようにする(ダブルセットアップ)。
分娩中の合併症で最も重篤なものは、両児の先進部が同時に下降し、引っ掛かるもので、懸鉤(けんこう:interlocking)と呼ばれる。胎児の還納(子宮内に戻す)を試み、直ちに帝王切開するか、断頭術や切胎術により1児を犠牲にし、他児を娩出しなければならない。
予後
母体では妊娠高血圧症候群、微弱陣痛、弛緩出血を合併することが多く、単胎妊娠に比べ母体死亡率はやや高い。