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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠前期>子宮外妊娠

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

1.妊娠前期(4週から14週まで)
のリスクサインと対応(一覧はこちら)

(3)子宮外妊娠(異所性妊娠)

note概略

    1. 受精卵が子宮腔(子宮内膜)以外の場所に着床し、生育した妊娠を子宮外妊娠という。
    2. 全妊娠の0.5〜1.5%に発生するが、近年、クラミジアなどの性感染症の増加や体外受精・胚移植の普及により、その頻度は増加している。
    3. 骨盤腹膜炎、腹部手術、子宮外妊娠などの既往がある場合、本症が発症しやすい。
    4. 妊娠のごく初期(4〜5週)には、特徴的な症状もなく、正常妊娠や切迫流産と鑑別が困難で、妊娠5週後半から妊娠6週にかけ、超音波検査で子宮内に胎嚢が確認されない場合に本症が強く疑われる。
    5. 最も頻度が高い卵管妊娠では、妊娠7〜8週以降になると胎嚢が増大、破裂し、腹腔内出血による急性貧血、循環虚脱から低血圧、頻脈となり、顔面蒼白、発汗、悪心・嘔吐、意識障害などのショック症状を呈する。
    6. 近年、早期診断が可能になり、ショック状態で発見されることは少なくなっている。
    7. 治療は手術療法が主体となる。

noteリスクサイン

リスク1:少量性器出血.腹緊.軽度の下腹痛.
リスク2:少量性器出血を伴う強い下腹痛.
リスク3:低血圧.頻脈.顔面蒼白.発汗.意識障害(出血性ショック).

noteリスクサインへの対応

    1. 日常生活サポート
      1. いかなる日常生活をおくっても子宮外妊娠を予防することはできない。
      2. 過度に安静を指導しても特に効果はなく、基本的には早期発見につとめることが重要である。
      3. 市販の妊娠診断薬で、妊娠を診断した場合は、予定月経日から2週間前後には専門医を受診し、胎嚢の確認を行なうようにするべきである。
      4. 妊娠と診断された後であっても、本症に特徴的な、断続する(4〜5日間以上)性器出血に強い腹痛を伴う場合は直ちに受診をする。

    2. リスク因子
      1. 他の疾患に比較し、リスク因子(後述)が深く発症に関与する。
      2. 受診に際しては、婦人科疾患にかかわらず、これまでの病歴を正しくつたえるようにする。

    3. 早期診断ポイント
      1. 妊娠6週になって胎嚢が確認されない場合。この場合まず妊娠週数を確認する。最終月経のみならず関係をもった日にちなど、参考になりそうなものがないか、よく問診する。仮に子宮外妊娠であった場合でも週数は重要である。
      2. ヒト絨毛性ゴナドトロピンが2000 IU/L以上で子宮内に胎嚢が確認されない場合。
      3. 少量性器出血を伴う強い下腹痛。
      4. 無症候性性器出血(頸管妊娠)。

note頻度

全妊娠の0.5〜1.5%に発生する。

noteリスク因子

    1. 年齢
      好発年齢は20〜30歳代だが、40歳以上では発生率が10歳代の3倍以上になる。

    2. 妊娠歴
      経産婦に多い傾向があり、前回の妊娠との間隔が長い(5年以上)ものがリスクになる。

    3. 骨盤内炎症性疾患の既往
      子宮外妊娠の約10〜30%に骨盤内炎症性疾患(クラミジア感染症など)による卵管障害が確認される。

    4. 腹部手術の既往
      卵管形成術、卵管不妊手術(卵管結紮術)など腹部手術の既往は最も重要なリスク因子となる。

    5. 子宮外妊娠の既往
      子宮外妊娠の既往を持つ婦人が、妊娠した場合、約10%に子宮外妊娠が反復する。近年の卵管保存手術の普及により、反復子宮外妊娠は増加している。

    6. 子宮内避妊具の使用
      子宮内避妊具(IUD)を使用していたにも関わらず妊娠した場合、約2〜5%が子宮外妊娠になる。

    7. 子宮内膜症の罹患
      子宮内膜症は骨盤内に様々な程度の癒着を起こし、しばしば卵管が閉鎖する。卵管が通過していても周囲の癒着が強ければ、輸送障害が発生する。

    8. 不妊治療
      体外受精・胚移植では約5%に子宮外妊娠が発症する。

note卵管妊娠

    1. 病態生理
       子宮外妊娠の大部分(97%)を占める。炎症、癒着、奇形などによる卵管の狭窄、閉鎖が原因で、受精卵の通過障害がおこる。また、卵管が通過している場合でも、周囲臓器(腹膜や腸管など)との癒着が強いと、卵管の運動性が制限され、受精卵が円滑に運ばれず輸送障害がおこる。子宮内膜以外の組織(卵管、腹膜など)に受精卵が着床した場合でも正常妊娠と同様、妊娠反応(尿中ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は陽性となり、妊娠のごく初期(4〜5週)には正常妊娠や流産と鑑別が困難になる。
      受精卵は卵管筋層内に着床するが、子宮内膜がないため、胎嚢は卵管筋層と卵巣内膜から構成される。また、子宮は軟化・肥大し、子宮内膜は脱落膜変化のため約1cmの厚さに達し、ヒト絨毛性ゴナドトロピン分泌が保たれている間、出血は起きないが、分泌が低下すると、不正出血として排出される。
      受精卵の増大とともに多くは妊娠8週までに、以下の2つの形態により中絶をおこす。

      1. 卵管流産
        卵管膨大部妊娠に多い。受精卵の付着部(胎盤側)より出血し、卵が剥離し、胎嚢、胎芽は卵管腔から腹腔内へ排出される。受精卵の剥離部からの出血は少量持続することもあるが、自然に止血することが多い。
      2. 卵管破裂
        卵管峡部妊娠に多く、胎嚢の増大とともに卵管壁が破れ、胎芽が直接腹腔内に排出される。破裂部より出血が持続し、高度の腹腔内出血にいたる。

    2. 症状
      1. 無月経
        不正性器出血を正常な月経と誤認することが多く、初診時には20〜30%の妊婦で妊娠を自覚していないため、病歴の聴取には注意が必要である。
      2. 性器出血
        胎盤機能(ヒト絨毛性ゴナドトロピン分泌)が低下することにより子宮内膜より出血する。出血は少量、暗赤色で持続的または断続的である。
      3. 下腹痛
        卵管流産や破裂前にはごく軽度の下腹痛、腹緊を自覚するにとどまる。卵管流産や破裂による腹腔内出血により強い下腹痛が出現する。
      4. ショック症状
        卵管破裂に多い。診断が遅れ、腹腔内出血を放置すると出血は時に2000 ml以上にもおよぶ。大量の腹腔内出血による急性貧血、循環虚脱から低血圧、頻脈となり、顔面蒼白、発汗、悪心・嘔吐、意識障害などのショック症状を呈する。

    3. 診断
      1. 内診
        子宮は妊娠週数に比して小さい。病側の付属器(卵管、卵巣)は腫大し、著明な圧痛、抵抗を認める。後腟円蓋(ダグラス窩)が腹腔内出血により膨隆し、圧痛、抵抗、および子宮腟部の移動痛を認める。
      2. 腹部所見
        下腹部が膨満し、圧痛、筋性防御(デフェンス)が出現する。
      3. ヒト絨毛性ゴナドトロピン値測定
        正常妊娠では2日間ごとに測定値は倍以上増加し、妊娠5週には約5000 IU/Lに達するが、子宮外妊娠ではこの増加率が低い。
      4. 超音波検査(経腟法)
        妊娠週数が確かな正常妊娠の場合、超音波検査により妊娠5週後半までに100%子宮内に胎嚢が確認されるが、これが確認されない場合、本症を強く疑う。
         付属器領域に卵巣とは別に胎嚢が確認されることがあり、腹腔内出血は子宮後方のエコーフリースペースとして認められる。
      5. ダグラス窩穿刺
        腹腔内出血を証明するため行なわれる。子宮外妊娠の場合、暗赤色で非凝固性(固まらない)の血液が特徴的である。
      6. 子宮内容除去術、腹腔鏡
         以上の方法で診断がつかない場合に行なわれる。正常妊娠が否定されていることが条件となるが、子宮内容除去術により子宮内に絨毛組織を認めれば子宮外妊娠は否定できる。子宮内容が脱落膜のみの場合、確定診断のため腹腔鏡が用いられることもある。腹腔鏡は確定診断に引き続き、治療に移行できる利点がある。

    4. 治療
      1. 全身状態の改善
        腹腔内出血が多い場合、手術準備をすすめると同時に輸血、輸液あるいは抗ショック療法を行なう。
      2. 手術療法
         第一選択の治療になるが、手術後の妊孕性や年齢を考慮し術式を選択する。
        1. 根治手術(付属器切除術、卵管切除術)
          子宮外妊娠は再発率が高く、根治性を高めるには卵管切除術が第一選択になる。
        2. 保存手術(卵管切開、胎嚢除去術)
          妊孕性の温存には優れているが、子宮外妊娠の再発や絨毛組織が遺残するリスクがある。
        3. 腹腔鏡下手術
           腹腔鏡下に根治手術あるいは保存手術が選択できる。手術侵襲が少なく、術後の癒着が少ない。メトトレキサートの局所投与にも適している。
      3. 内科治療
        メトトレキサートの全身投与や局所投与が注目されているが、全ての症例に適しているわけではなく、対象者を慎重に選択しなければならない。

note腹腔妊娠

 受精卵が腹腔内(腹膜、大網、腸管など)に着床する妊娠で、全子宮外妊娠の0.5〜1%程度とまれな疾患である。大部分は胎児死亡にいたる。まれに生児を得ることがあるが、多くは胎勢(胎児の姿勢)の異常から先天奇形をもつ。
 胎盤が完成した後(妊娠4〜5ヶ月)に診断された場合、しばしば根治手術が困難になる。胎児、臍帯を除去した後、胎盤が付着している臓器から剥離できない場合は、臓器(大網、腸管など)ごと切除するか、胎盤を残し閉腹し、メトトレキサートによる保存治療を追加しなければならない。

note卵巣妊娠

 受精卵が卵巣組織内に着床し、発育するものをいう。症状、経過は卵管妊娠に類似しており、同様に診断、治療する。

note頸管妊娠

 受精卵が子宮頸管部に着床したもので、子宮内の異所性妊娠である。頸管部は子宮体部と異なり、妊娠の進行に伴い増大せず胎児を育てることができない。また、頸管には子宮動脈が直接流入しており、流産徴候が出現すると予期せぬ大量出血に遭遇する。難治性で、ときに妊孕性の温存が難しい重篤な疾患である。卵管の通過性に問題はないが、着床が妨げられる炎症、萎縮、発育不全、頻回の人工妊娠中絶などの子宮内膜異常が原因と考えられる。

  1. 症状
    1. 無症候性性器出血
      妊娠初期から少量の性器出血が断続するが、突然の大量出血をもって始まることもある。内診、ゾンデ診、子宮頸管拡張時に大量出血をきたす。
    2. 下腹部不快感、排尿痛、頻尿、腰痛

  2. 診断
    1. 内診
      子宮頸管が柔らかく膨隆し、その上に比較的硬い体部を触れるため、子宮は全体として「だるま型」となる。
    2. 超音波
      子宮頸管部に胎嚢を確認する。進行流産の場合でも頸管部に胎嚢が落下し、同様の所見を示すことがあるが、この場合は子宮内膜も胎嚢とともに下降している(剥離徴候)ことが鑑別点になる。

  3. 治療
    1. 子宮頸管内容除去術
      大量出血の危険があり、ごく早期の症例に限られる。
    2. 子宮単純全摘術
      最も安全かつ一般的だが、妊孕性は失われる。
    3. 化学療法併用療法
      メトトレキサートにより絨毛組織の縮小をはかり、子宮頸管内容除去術を行なう。

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