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>TOP>情報コーナー「周産期看護マニュアル」top妊娠前期>流産

book「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
(中井章人著,東京医学社)より  (全体の目次はこちら)


I.異常・疾病からみたリスクサイン

1.妊娠前期(4週から14週まで)
のリスクサインと対応(一覧はこちら)

(2)流産

note概略

    1. 流産とは妊娠22週未満の妊娠中絶をさし、妊娠12週未満のものを早期流産、妊娠12週以降22週未満のものを後期流産という。
    2. 妊娠週数が不明なものは、胎児の体重が500g未満で中絶されたものを流産とする。
    3. 流産の頻度は全妊娠の約15%(早期流産13〜14%、後期流産1〜2%)で、流産率は母体の加齢とともに増加する。
    4. 早期流産と後期流産は病態が異なり、早期流産は主に胎児側の異常により、後期流産は母体側の異常による。
    5. 胎児側の異常による早期流産に有効な治療はなく、安静も役立たない。
    6. 後期流産は切迫早産に準じ、感染や頸管無力症など母体の状況に応じ治療する。

noteリスクサイン

早期流産(妊娠12週まで)
 リスク1:少量性器出血.腹部緊満感.
 リスク2:月経以上の出血.月経痛程度の腹痛.
 リスク3:なし.

後期流産(妊娠12から22週まで)
 リスク1:腹部緊満感.
 リスク2:少量の出血.腹痛.
 リスク3:月経以上の出血.月経痛程度の腹痛.

noteリスクサインへの対応

  1. 日常生活サポート
    1. 流産は全妊娠の15%におこり、大部分は妊娠12週までに発症し、その原因は胎児側にある。
    2. 胎児因子のうち70%は染色体異常で、すでに受精時に発症している。言い換えれば、妊娠12週(実際には10週を過ぎれば流産率は激減する)までは結果待ちをしているようなもので、過度に神経質にならないよう通常に生活する。
    3. 妊娠12週までの切迫流産に明らかなエビデンスを持つ治療法(EBM)はない。
    4. 軽度の出血や腹緊といった切迫流産徴候が出現しても、直ちに仕事を休み寝込む必要はない。もちろん過度(普段以上)の運動や仕事は避けるべきだが、必要以上に安静をとる理由はない。
    5. 妊娠初期(妊娠8週頃まで)の少量の不正出血は全ての妊婦の約30%に出現するが、出血の有無は流産率に影響しない。したがって、月経程度の出血、月経痛程度の腹痛が専門医を受診する目安になる。ただし、この場合の受診の目的は、あくまで流産を診断するためで、有効な治療はない。

  2. 栄養サポート
    1. 栄養面でも特別な注意はなく、通常に規則正しい食生活をおくるようにする。
    2. 「つわり」が出現してくるようであれば、妊娠は良好に進行しているひとつの根拠になるが、逆に「つわり」が急速に消失した場合は流産を疑う。
  1. 妊娠12週以降の流産は早期早産と考えてよい。
  2. 原因の大部分は母体側の因子で、生活環境や職場環境に問題があれば直ちに改善しなければならない。全ての治療に優先するものは安静である。
  3. 妊娠12週以降に、出血、腹痛などが出現する場合は、自宅で様子を見るのではなく、すみやかに専門医の受診をする。

note病態生理

 流産とは妊娠22週未満の妊娠中絶をさし、妊娠12週未満のものを早期流産、妊娠12週以降22週未満のものを後期流産という。妊卵が何らかの原因により死亡した場合、通常数日から4週間頃までに子宮外へ排出される。妊娠8週未満の胎芽では、酵素により自己溶解をおこし羊水中に完全に吸収されることが多い。それ以降の胎児では、完全に溶解されることが困難で、その一部が浸軟した状態になる。浸軟は不完全溶解であり、細菌性の腐敗ではない。また、まれに浸軟とは逆に身体の水分が失われミイラ化、さらには石灰化することもある。
 子宮収縮の発生機序については明確にされていないが、妊卵の死亡によるヒト絨毛性ゴナドトロピンの低下や溶解、浸軟変化に対する異物(拒絶)反応と推察される。

note分類

    1. 完全流産
      卵が脱落膜ごと完全に排出されるもの。月経同様、中等量の出血、腹痛が出現するが、排出が終わるとともに止血する。

    2. 不全流産
      卵膜が破綻し、妊卵や脱落膜が部分的に排出されるが、一部が子宮内に残留している状態。腹痛、出血などを伴う。

    3. 進行流産
      妊卵や脱落膜の排出が起こっている過程をさす。出血が増加し、腹痛が強まる。

    4. 稽留流産
      子宮内で胎芽あるいは胎児が死亡後、内容の排出がなく子宮内に停滞している状態。症状はあまりなく、あっても軽度の腹緊、茶褐色の分泌物を認める程度で、通常妊産婦は異常を感じず、妊婦健診で子宮内胎児死亡(IUGR)として診断されることが多い。また、胎児の確認ができず絨毛組織だけが発育する状態を枯死卵といい、この状態に分類される。

    5. 切迫流産
      流産が始まろうとする状態。わずかな出血や腹痛が出現する。

note原因

様々な原因があげられるが、実際には原因不明の場合が多い。

  1. 胎児側因子
    早期流産(妊娠12週未満のもの):病的卵、異常発育卵(奇形)、染色体異常など胎児側の異常による。流産に至った絨毛の2/3に染色体異常が認められる。
    後期流産(妊娠12〜22週のもの):胎児側因子には、胎盤、臍帯、卵膜の異常がある。

  2. 母体側因子
    1. 性器異常
      子宮奇形、子宮発育不全、子宮筋腫、頸管無力症
    2. 感染症
      梅毒、単純ヘルペス、風疹、マイコプラズマ、サイトメガロウイルス、パルボウイルス、クラミジア感染症など。
    3. 偶発合併症
      心疾患、腎疾患、自己免疫疾患(膠原病)、内分泌疾患(甲状腺機能低下症、糖尿病)悪性腫瘍など。
    4. その他
      生活環境、薬物使用、被爆、外傷など

note症状

    1. 早期流産(妊娠12週未満のもの)
      出血は少量から月経量以上になるものまで、様々であるが、失血死することはなく、全身状態はよい。疼痛は下腹痛、腰痛、陣痛様、鈍痛などさまざまで程度もまちまちである。

    2. 後期流産(妊娠12週以降22週未満のもの)
      正常分娩に近い経過をとる。出血、陣痛から始まり、破水後、胎児の娩出、後産娩出にいたる。

    3. 感染による流産
      流、早産の原因に細菌性腟症から頸管炎を経て胎児を包む絨毛膜羊膜炎が知られている。こうした感染症から流産にいたる場合、通常の流産症状に加え、発熱、悪臭を伴う帯下、子宮の圧痛などが出現する。

note診断

  1. 超音波検査
     超音波検査が確定診断になる。妊娠週数が正しい(基礎体温などで排卵日が明らかなもの)場合の診断のポイントを以下に示す。
    1. 妊娠6週(5週後半)で子宮内に胎嚢がない(子宮外妊娠との鑑別が必要)。
    2. 胎嚢の増加が1週間に4 mm以下の場合。
    3. 2.5 cm以上の胎嚢内に胎児が確認できない。
    4. 一度確認された胎児心拍が消失する。
    5. 胎嚢が頸管部に向かい移動する。

  2. ホルモン検査
     胎嚢が明確に確認できる妊娠6週以降(正確には5週後半)、ホルモン値の上昇が不良な場合本症の補助診断になる。ヒト絨毛性ゴナドトロピン値(hCG)が1000 IU/l以下、血中プロゲステロン(黄体ホルモン)が5 ng/ml以下の場合、流産の可能性が高い。

note治療

  1. 切迫流産
    妊娠12週未満の切迫流産治療にEBMはない。感染症や母体の偶発合併症など原因が明らかなものはそれぞれ原疾患の治療を行なう。しかし、胎児側の因子が疑われる場合や原因の明らかでない場合、安静、ホルモン投与(黄体ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、子宮収縮抑制剤など、これまで行なわれてきた治療の有効性は証明されていない。
    妊娠12週以降の切迫流産は、感染症や頸管無力症など母体因子によるものが多く、切迫早産の治療に準じる。

  2. 早期流産(妊娠12週未満のもの)
    1. 完全流産
      出血、腹痛がなく超音波検査上、子宮腔内に胎嚢および肥厚した内膜を認めず、ヒト絨毛性ゴナドトロピン値(hCG)が非妊時のレベルに低下していれば、自然経過観察する。
    2. 不全流産、進行流産、稽留流産
      頸管を拡張後、流産手術(子宮内容除去術)を行なう。

  3. 後期流産(妊娠12週以降22週未満のもの)
    1. 陣痛誘発
      頸管拡張とプレグランディン腟座薬、プロスタグランジンE2の内服、プロスタグランジンF2α、オキシトシンの点滴静注を行なう。
    2. 自然排出を待つ。

●習慣性流産

 連続3回以上の自然流産をくり返したものをさす。抗リン脂質抗体症候群、抗DNA抗体、抗SS-A抗体などを有する免疫異常、夫婦の染色体異常、内分泌障害(甲状腺機能異常、糖尿病)などが原因にあげられているが、95%は原因不明である。

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